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マンガにはストーリー、共感、感動はありません。 小説には、それらしきもの(捏造への意志)があります。

2015年07月

みなし児ヴィデオ・オレンジ 9 (Imagine)

スマホ640pix



      Imagine


 ニコライは、ピクリとも動きませんでした。

 彼は、みんなの中ではのひくい子でした。ソルよりわかりやすい、いわゆる個性的こせいてきな子でした。共有きょうゆうの時間、とつぜん声を上げたり、たおれてアワをふいたりしました。それをきっかけにして、そのつど、みんなが考えるべき共有きょうゆうのテーマをあたえてくれる、だいじな一員いちいんでした。

「ピィーピィーピィー、タンカを、とおさせていただきます。ごちゅういください」

「ピィーピィーピィー、タンカを、とおさせていただきます。ごちゅういください」

「ピィーピィーピィー、タンカを、とおさせていただきます。ごちゅういください」

 女性音声じょせいおんせいによる、おねがいが聞こえてくると、チラチラ赤いまたたきが、カベに反映はんえいします。

「あ、タクちゃんだ」

「タクちゃんがくるよ」

「タクちゃん登場とうじょう!」

 子らはクスクス、わらってます。

 リニアタンカ(地面からわずかに浮いた浮遊型) が、登場とうじょうしました。前方の運転台うんてんだいに、人がのっています。微速びそくのタンカからおりると、子らをしり目に、そそくさと作業さぎょうにとりかかりました。

 タンカの出動しゅつどうは、カンオンの連携れんけいによる保護監視下ほごかんしかでおこなわれます。つねに監視モニターしつづけている、血圧けつあつ体温たいおん心電図しんでんず脳波のうは呼気こきテストなどの個人データ。および、ぼうだいなりょう一般いっぱんデータ。蓄積ちくせきされた双方そうほう比較照合ひかくしょうごうすることによって、発病はつびょうにおける臨界点りんかいてん予測よそくします。

 その出動指示しゅつどうしじは、まだ未発症みはっしょう段階だんかいにもおよびました。当人の自覚じかくがないままフライング発車はっしゃするため、しぶしぶタンカにのせられる、ほほえましい光景こうけいが、よく見うけられました。

 この手のデータは、共有財産きょうゆうざいさんと、なかば社会認知しゃかいにんちされており、個人こじんおおやけの相互利益そうごりえきとなっていました。情報じょうほう共有化きょうゆうかされることによって、病気びょうき早期予防そうきよぼう早期治療そうきちりょう役立やくだち、全体的ホリスティック医療いりょう向上こうじょう貢献こうけんしていました。

 すべてをカンオンに一任いちにんすることで、予算よさん運営うんえい管理かんり一元化いちげんかがはかられ、さけられぬ超高齢化社会ちょうこうれいかしゃかいの、慢性的まんせいてき赤字あかじ解消かいしょう成功せいこうしていたのでした。

「ピーピーピー、きけんだよ。そばに、よらないでね」

「ピーピーピー、きけんだよ。そばに、よらないでね」

「ピーピーピー、きけんだよ。そばに、よらないでね」

 赤い回転灯かいてんとうが、クルクル、タンカの前後でまわりつづけています。ボディに「ラブ・バイブ」と「鬼道戦士きどうせんしカンタム・プネウマ」のラッピング塗装とそうがされています。もちろんエリゼの広告収益こうこくしゅうえきによる、経費削減けいひさくげんのためのものでした。

 手ばやくベッド台に、使いすてシートカバーをはり、三歩はなれたところから、リモコン操作そうさ平行へいこうブームを下ろします。

「ピーピーピー、ブームを下ろさせていただきます。ごちゅういください」

「ピーピーピー、ブームを下ろさせていただきます。ごちゅういください」

「ピーピーピー、ブームを下ろさせていただきます。ごちゅういください」

 手ぶくろにマスクの完全防備かんぜんぼうびをととのえ、ニコライをベッド台にのせました。リモコンでブームを上げて、タンカにのせます。

「ピーピーピー、あぶないよ。ちかよらないでね」

「ピーピーピー、あぶないよ。ちかよらないでね」

「ピーピーピー、あぶないよ。ちかよらないでね」

 タク(37)は、じゅんスクールドクターです。ニコライがたおれると、きまってあらわれました。黒ぶちメガネで黒い短髪たんぱつ。もみあげがあり、レンズから小つぶな目がのぞいています。やせがた平均身長へいきんしんちょうで、スクール・ドクターにた、あわいグリーンの上下のセパレートをきていました。

「今日のニコライのかかりの人は、だれですか?」

 だれもこたえません。

「今日の、ニコライの、かかりの人は、だれですか?」

 滑舌かつぜつよくいいましたが、しーんとしています。

「今日のかかりは、だれよ?」

 やや、声をあらげていいました。タクはだれに対しても、ものおじしないしゃべり方をしました。そのせいで、たびたびトラブルにみまわれましたが、生来せいらいのハートの強さ(鈍感さ)が、彼をすくっていました。あるいみ彼もまた、個性的こせいてき人物じんぶつでした。もっとも、個性こせいのない人などいませんが。

 ほんらいなら、ソウルメイトの異性いせいである女子が「ニコライのかかり」になるべきですが、ニコライのばあい、事情じじょうが少しちがっていました。ソルはその役目やくめを思いだし、ビクンッとなって、へんじをしました。

「ハイッ」

「それでは、ほかの子がぶつからないように、タンカの後ろから、ちゅういして、ついてきてください」

 タクはマニュアルの文言もんごんどおり、一字一句いちじいっくたがわずいいました。彼はチョッとでもマニュアルから外れるのが、不快イヤでした。手引き復帰マニュアルふっきすると落ち着きをとりもどし、たんたんと仕事をこなしていきます。ソルはおこってないようで、ほっとしました。

「それでは、バックします。みんなさん、さがっていてくださいね」

「はぁーーい」

 子らが不必要ふひつようなほど、明るく大きな声でへんじをすると、小さい声でクスクス、だれかが「みんなさん」といいました。

 ギヤがバックに入りました。

「ピーピーピー、バックさせていただきます。ごちゅうい下さい」

「ピーピーピー、バックさせていただきます。ごちゅうい下さい」

「ピーピーピー、バックさせていただきます。ごちゅうい下さい」

 間をおいて、タンカがモタモタ、うごきはじめました。

「ピーピーピー、タンカを、とおさせていただきます。ごちゅういください」

「ピーピーピー、タンカを、とおさせていただきます。ごちゅういください」

「ピーピーピー、タンカを、とおさせていただきます。ごちゅういください」

 ろう下を徒歩とほでついてゆくソル。あまりのおそさに、足がタンカにぶつかりそう。彼らがルームを出るのと入れかえに、クルクル青い回転灯かいてんとうを光らせた、清掃用せいそうようのタートルがたロボットとすれちがいました。

 リトリート(保健室的なヘヤ)につくと、鳥のときのわかはげイケメンの、スクールドクターがいました。こちらにはかまわず、ピンクのスツールボール(弾力のある球形で、背もたれなし)にこしかけ、カンオンにむかってブツブツいっています。自分の仕事しごといがい眼中がんちゅうにないというより、仕事しごとがハッキリわかれているようでした。

 タクも無視むしするかのように、こちらの仕事しごとにとりかかります。タクのしじで、ソルも手つだわされます。それは「ミンナノキマリ」という共有要項きょうゆうようこうで、きまっていることでした。鳥のことをたずねたかったのですが、そんな状況じょうきょうではないことは、さすがのソルもわかっていました。ニコライはベッドにねかされたまま、ピクリともしませんでした。

 タクはこしをおとし、視線しせんをあわせ、ソルの体にふれながらいいます。

「それでは、きみが、ニコライの、ホットパンツと下着したぎを、ぬがしてくれるんだよね?」

「きみが」のところを、一番つよく発音はつおんしました。タクはマニュアルどおり命令口調めいれいくちょうをさけ、対等たいとうにへりくだって、同意どういをせまりました。大人として上に立つ加害者意識かがいしゃいしきのなさ、というより、マニュアル原理げんり近視眼きんしがんというべきでしょう。とくにタクのばあいは、なおさら。そもそも、さまつなマニュアルの存在そんざいこそ、面倒めんどうな人たちからの責任回避じこほぞんなのですから。

 おどおど、おしきられるソル。使いすての手ぶくろをわたされました。

 おそるおそる、ホットパンツを人さしゆび親指おやゆびでつまみ、ぬがしにかかります。

「ゲホッゲホッ、ゲホゲホ、ゲホホホ」

 不穏ふおんな色になった下着したぎをおろすと、キョウレツなにおいとブツに、むせかえりナミダぐみます。なによりギョッとしたのは、ボーボーで、彼のサイズが異常いじょうだったことでした。まだソルだって生えてないのに。

 タクのしじどおり、大ぶりのぬれティッシュでふきとるというより、こそぎ落します。可燃腐食性かねんふしょくせい不透明ふとうめいのジプロックに、大量ていりょうのぬれティッシュと重い肌着はだぎ、さいごに手ぶくろを入れ閉じました。それをいわれるまま、ぬこのケティーのゴミボックスへ。ホットパンツもジプロックに入れ、おなじようにてました。

「ありがとうソル」

 ぼうよみで、タクはいいました。

 タクは、たなから新しいものを二つだして、ソルに手わたします。

「きみが、ニコライに、新しい下着したぎとホットパンツを、はかしてくれたら、うれしいな」

 はっきりした口調くちょうに、手ぶりをまじえるタク。彼の横で、カンオンが空中静止くうちゅうせいししています。ソルから見えない、視野角しやかく0度で照射しょうしゃしているのでしょう。作業さぎょうマニュアル・サーブロックの、一字一句いちじいっくを、正確せいかくによんでいるものと思われます。

「ありがとう、ソル」 

 けっきょく終わってみれば、すべて彼一人でやっていました。これはマイノリティーのたちばにたった、多様性たようせいをそんちょうする「思いやり体験学習たいけんかせくしゅう」のいっかんでした。その間、スクールドクターは、こちらに一瞥いちべつもくれませんでした。

「おわりました。スズキさん」

 タクがいうと、スクールドクターがうなずき、カンオンとのやりとりをやめました。

「ありがとうソル、よくやってくれたね」

 さらりと、スズキ(30)がいいました。

 彼はソルをともない、あいているベッドの方へいき、そこへこしかけ、ソルにもすわるようにうながしました。彼はなんとなく、イヤな予感よかんがしました。

 スズキがきりだします。

「さあ、きみが今やったボランティアについて、どんな感想かんそうをもったか、聞かせてくれないかな?」

 ボランティア? ソルは心の中で、反問はんもんしました。

「今なにを感じているのか、そっちょくにぼくに、はなしてくれないかな?」

「えっと、かんそうですか?」

「きみはニコライのこと、どう思ってるのかな?」

「かんそうを、ゆうんですか?」

「きみはハンディのある、ニコライのことを、どう思ってるのかな?」

「ニコライのことですか?」

 まずいことにソルは、三回つづけて、質問しつもんに、質問しつもんで答えてしまいました。ヘヤの温度おんどが一度下がりましたが、彼は気づきませんでした。

「だれのことだと思ったの、きみのかかりでしょ」

「はぁ」

「はぁじゃなくて、彼のたちばになって考える、いいきかいになったでしょ」

「マイノリティー学習がくしゅうをしてみた、感想かんそうはどう?」

「はあ」

「はあじやなくて」

「なんか、イヤイヤやってなかった?」

「えっ」

「きみはマイノリティーの人のこと、その人の身になって考えたことあるの?」

「その人の気もちになってみたことあるの?」

「……」

「その人のいたみを、わかろうとしたことがあるのかってことを、聞いているの」

「……」

「ニコライは今、どんな気もちだと思う?」

「えっと、今ですか、おきたらですか、想像そうぞうで、ですか?」

 ソルのトンチンカンな空気を無視むしした発言はつげんに、スズキは不機嫌ふきげんを、ややあらわにして見せました。

「リクツをいってるんじゃなくて、人の気もちのことをいってるんだが?」

 ソルはスリーテンポおくれて、のみこみました。この人は議論ぎろんをもとめていない、ことを。まっさきに気づかなかった、自分をせめました。

「……」

「きみあのとき、すぐに手を上げなかったよね」

「ほらオレが、かかりの人って、言ったときさ」

 だしぬけに、タクがわりこんできました。

「ちょっときみは、だまっててくれないか」

 イラッとして、スズキがいいました。

「あ、サーセン」

 タクは頭に手をやり、すぐに引っこみました。

「へへ、またおこられちゃったよ」

「また、よけいなことをいう」

 ななめ下を見て、小声でスズキがぼやきました。

「だいたい、感想かんそうを言い合うのは、共有要項ミンナノキマリできまっていることでしょ。シュザンヌも説明せつめいしたはずだが? どうもきみは、きみの少しばかりの個性こせいに、ちょっと、あまえているようだね」

「……」

「もしかしてきみは、ニコライとか、ハンディキャップのある子とか、女の子たちとか、マイノリティーの人たちを、無意識むいしきに少し下に見てないか」

「いっておくが、彼女たちや彼らの方がきみなんかより、ずうっとガマン強いんだぞ」

「ハンディを、ものともしない、いたみにたえる強さがあるんだが、それがきみには、わかるかな?」

「いえ……」

 ソルは消え入りそうな声で答えました。ナミダぐんでいましたが、こぼれないよう、こらえていました。

「だいじなことは、こうしたふれあいの中でカベをつくらず、きちんと意見いけんなり感想かんそうをいいあって、おたがいの理解りかいを深め合うことじゃないかな」

「イヤ、これはあくまでボク個人こじん感想かんそうで、一般論いっぱんろんでもなんでもないんだが(笑)」

「きみの方は、どう思っているのかな?」

 ハイと同意どういしさえすれば、早めに解放かいほうしてもらえるのは、じゅうじゅう承知しょうちしていました。彼の意固地いこじ個性ハンディのせいで、素直(~に、という日本語における間接目的語をともなわないコトバ、服従の意)になれませんでした。

 けっかは、いつもどおりをえらべず、をえらんでしまっていました。利他的共感りたてききょうかんにより、世間せけんからキックバックされるとく利己りこよりも、正しさというそんなコドクを。

 成熟(平均域化)できない自分のなさけなさ、不適応ふてきおうさに、彼はじ入りました。それとどうじに、ハラも立っていました。議論ぎろんのよちのない、いっぽうてきなスズキに対して。

 ホントか?

 ホントウは、はじをかかされておこってるだけじゃないのか、幼稚ようちさをかくそうとして、自分にカッコよくおこってみせてるだけじゃないのか?

 じゅくじゅくした感情かんじょうとコトバがせめぎあい、混乱こんらんしてきました。

 ぎゃくに混乱こんらんすることで、現実逃避げんじつとうひしようとしているんじゃないのか、オマエ。

 さいげんがなくなり、いっぱい、いっぱいになってきました。内省ないせいはどこまでいっても、やまいでしかありません。強制きょうせいされたとしても、ただ彼の仕事(下着交換)だけは、倫理りんりとしてのこりました。

 スズキにだけ、ハラを立ててるんだ。

 そう思いこもうとしても、うまくいきません。自分に対する自信じしんが、欠如けつじょしていたからでした。

自己じこあいする心から、すべて(関係)がはじまる」

 気はずかしくも正しい、そんな言葉ことばは、今の彼には想像そうぞうもつきませんでした。

 けっきょく、鳥のことはきけずじまいでした。


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みなし児ヴィデオ・オレンジ 8 (視聴覚ルーム)

スマホ640pix



      視聴覚ルーム



 すぅーと、おだやかなグラデーションで、やみへと落ちてゆきます。自分の視覚しかくをうしなう錯覚さっかくによい、子らは声を上げます。それへ、びんじょうして奇声きせいを上げる、一部の男子。手をつなぎあう女の子どうし。ひやかしまじりの悲鳴ひめい歓声かんせいとがコダマしあう、視聴覚しちょうかくルーム。いつもの、おやくそくの風景ふうけいでした。

 まっ暗。というより、うすいグレーといった感じでしょうか。それでもエリゼの子らにとっては、りっぱな暗闇くらやみでした。うすいグレーのまま、なにかがはじまるのを、子らはじっとまっていました。

 ガクンと、ルームの光量こうりょうがおちました。

「キャッ」

 だれか、女の子がさけびました。グレーから一転いってん暗闇くらやみ一歩手前いっぽてまえへ。平素いつもとは、ちがう事態じたいがおきています。ヒソヒソばなしがはじまりました。

 ニ三分たちました。体感的たいかんてきには、もっとでしょう。もういいかげん、なにかがおきないとへんです。映像えいぞうでも音声おんせいでもにおいでも、なんでもいいからはじまってくれるのを、子らはねがってます。一番いちばんあってしかるべき、キャッチャーの入室にゅうしつ説明せつめいを、子らはちのぞんでいました。けれど、なんの音沙汰おとさたもありません。なんだか、空調くうちょう調子ちょうしもわるいみたい。ヒソヒソが、ザワザワにかわっていきました。

 暗転あんてん。ギロチンのように、やみが落ちました。

「キィャッ」

「イヤー」

「ちょっとぉ、なにやってんの、んもぉー」

「ライトォ!」

「あかり、あかりぃ!」

「だれか、ドアあけて!」

「もう、いやあ!」

「ここ、マドないの?」

「ねーよ!」

「ライトつけてぇ」

「あかり」

「つけろ!」

「カンオン!」

 動揺どうようなみが一気にひろがって、き声と怒鳴どなり声がまじりあい、それへ地団駄じたんだをふむ音がくわわりました。

 ルームのやみは、窮屈きゅうくつさと息苦いきぐるしさと蒸暑むしあつさとで、充満じゅうまんしていました。

 ムズムズするソル。今すぐフロアに大の字になって、体をこすりつけたい衝動しょうどうられます。モゾモゾ体をうごかしていると、なにかにぶつかりました。バームクーヘンのように、そうになった弾力だんりょくのあるかべ、そのはざま半身はんしんがのみこまれ、埋没まいぼつしそうになりました。ちなみにカンオンは、どんな状況下じょうきょうかでも、カンオンどうしはもちろん、人や宿主しゅくしゅには、あたりませんでした。

 を食いしばり、コブシをにぎりしめ、気をまぎらわすために、空想くうそう没頭ぼっとうしつづけるソル。彼は今、外にいます。新鮮しんせんな空気と、燦燦さんさんとふりそそぐ、エドワード・ホッパー(20世紀のアメリカの画家)のような外光がいこう。その屋外おくがいの明るいは、カンオンで見たか、まさに、ここで疑似体験ぎじたいけんしたシミュラークル(合わせ鏡の合成物)でした。

 よぎるフィトンチッド(樹木の香り成分)のかぐわしさ。ふくらはぎをでる、柔和にゅうわな草のうぶ毛。ドローン視点してん上昇じゃょうしょうと共に、眼下がんかにひろがる緑の海原うなばら。だれもいない野点のだてのように、ポツンと一点いってん、目につく赤い三角屋根さんかくやねのバンガロー小屋ごや

 の前にあるはずの、うでも見えない暗黒あんこく。ルームの中は騒擾そうじょうとしていました。キャッチャーもコーディネーターもおらず、モニターチェックしているはずのコモンさえ、かけつけるようすがありません。このときシュザンヌは、すでにエリゼを後にし、べつのアルバイトにいっていました。


 無人化設備むじんかせつびである視聴覚しちょうかくルームでは、人によるミスがおこらない前提ぜんていのため、キャッチャーおよび、コーディネーターは配置はいちされていませんでした。エリゼをとわずクララン市では、カンオンに「確率的かくりつてき信頼しんらい」をよせていました。むしろ市民しみん警戒けいかいするのは、統計的とうけいてき事故確立じかくりつの多い、人為じんいの方でした。「かりに不完全であっても、よりたしかなものをえらぶ」という次善じぜん成熟せいじゅくと「最終判断さいしゅうはんだんは、自分たちで下さない」という謙虚けんきょ聡明そうめいさを、市民らは自負じふしていました。

 人災じんさい回避かいひ、ムダ使いのカットによる経費削減けいひさくげん、そして仕事しごと効率化こうりつかの三セットが、空気として、市是しぜになっていました。


 騒音そうおん不快感ふかいかん嫌悪感けんおかん拒絶感きょぜつかん坩堝るつぼと化した、視聴覚しちょうかくルーム。まわりの空気に気圧けおされて、ソルの頭の自動再生じどうさいせいそうちにも、変化へんかがあらわれます。

 ただよう、カメムシやいたんだ胡瓜キュウリのような、青臭あおくさにおい。あたりをおおう、とげのあるカナムグラの絨毯じゅうたんみ入れたすねに、うっすらにじんだ、小粒こつぶ血玉ちだま。鳥の足にた葉っぱの、ヤブカラシの株立かぶだち。そこかしこに、ヒメジョオンの白い小花。川辺かわべに一本生えた、ニセアカシアの木。クズのつるからまるその下で、彼は一人。

 あまくげたような赤黒いにおいが、はなにこびりつく。異臭いしゅうの出どころをさぐれば、草叢くさむらに黒い襤褸切ボロきれのカタマリ。なかば干からびた内臓ないぞうのないカラスが、90度にクチバシをあけていた。

 うるささ、窮屈きゅうくつさ、ムッとする人いきれ。彼は目をつむって、情報じょうほう遮断しゃだんこころみていましたが、もはや電池切でんちぎれをおこし、映像えいぞう途絶とぜつしました。

 ルーム全体のヴィジョンをつくりだす、カンオンの連携れんけいしばりがけたのでしょうか。だれかのカンオンが、うすぼんやりともりました。

 だんだんかがやきをましてゆき、明確めいかくな形をとらええました。子らはピタリと、しずかになりました。

 翻訳ほんやくニュース、安く買われた東亜とうあのドラマ、健康けんこうサプリメント、バラエティじたての通販番組つうはんばんぐみなどを立てつづけにうつしだし、アニメの再放送さいほうそうで止まりました。

 なんとか制作委員会せいさくいいんかいによってつくられた、円盤販売目的えんばんはんばいもくてき深夜しんやアニメ。おびただしいかずの少女たちが登場とうじょうする「魔法まほうロボ 微少女戦隊びしょうじょせんたいラブリー・ヴィクトリー(花園学園編はなぞのがくえんへん)」が、アイドルグループのバブルガム・ポップなオープニングきょくではじまりました。

「ふぇーちこく、ちこくぅぅ」

 パンをくわえながら走りだす、ふだんはさえないドジっ子、元気だけがとりえの勝利翔子かつとし、しょうこ主人公ヒロインのおはなし。

 ひとたび彼女が愛のいかりに目ざめるとき、え立つ赤いオーラ、わきたつ無限むげんあいの力、はじまる第一段階だいいちだんかいのメタモルフォーゼ。ハギレとなってとびちる服、あらわなむねうでブラでかくしながら、ピッチピチ、エレメンタルスーツを身にまとう。――ハミケツパンツより短いたけのスカート、えんび服のように、のびたセーラーカラーえりの原色のセーラー服。フィギュア化されたその容姿ようしは、ほとんどはだかの上に、服をペイントしただけに見えました。デカいちちはマザコンを、デカい目とあまったるい声はロリコンを、出産不能しゅっさんふのう石女うまずめのくびれたこしは、リリコンの娼婦欲求しょうふよっきゅうを、わがまま贅沢ぜいたくにみたしていました。

 さだめられし純潔じゅんけつ乙女おとめたちが、いのりの唱歌しょうかをささげる時、あらわれる巨大きょだい メタル・ドレス(ロボットの総称)「ニーケー」(主人公機、今や乗り換え三機目)。

 少女たちは、それぞれのメタル・ドレスにコンセプション(搭乗)する。ウーム(コクピットのよび名)の中で、シールドケーブルがたこ触手しょくしゅのごとくからみつく。 なぜか、やぶれた服で身悶みもだたたかう少女たち。いつもギリギリのピンチで、服もピンチ!

 キャラのかおかおかお分割ぶんかつされた画面がめんめる、スタジオ・サンセット起源きげん手法スタイル。カラフルなナカマの気もちが一つになって、まばゆい七色のオーラでつながる機体きたい。つぎつぎ148体のメタル・ドレスが合体がったいする、いつもの板金えいぞうサーカス。画面二分割がめんにぶんかつのロボとヒロイン、ビシッとキメポーズで「ヴィクトリア、ニーケー」が出現しゅつげんした。

 手ごわい強敵ライバルなすすべなく、すべてを出しつくし、ナカマは満身創痍(キズは線だけで表現)で、戦意喪失せんいそうしつ

 目の前のあなた(敵とはいわない、頃すというかわりに、たおすという)は、自分の心のやみへと、ヒロインを引きずりこむ。あなたの記憶きおくにのまれ、彼女は暗黒面あんこくめんをさまう。つらい記憶を追体験ついたいけんし、ゆらぎブレまくる主人公しゅじんこう

 じつは本当のとりえは強さではなく、他人ひとの気もちをだれよりもわかってあげられる「やさしさ」だった主人公しゅじんこう顔面がんめんの半分をしめる、大きな黒目が白くなる。うずまきの中心ちゅうしんのように、他人をまきこむ魅力チャームをもつが、じつはだれより感化かんかされやすかった彼女。まっ黒にぬりつぶされた彼女の体と、きかかった彼女の魂魄ソウル。すんでのところで、したしい人の声が聞こえる。黒一色のダークな世界が、自身じしんのなつかしい子○○時代の記憶きおくと入れかわる。ブランコでぼっちの小さい彼女に、一人だけ声をかけてくれた、小さいあなた。二人でジャングルジムをまわし、たわむれあそぶ。やがて、なつかしいナカマたちの声が聞こえ、にもどろうとするも、のこされるのは小さきあなた、ただひとり。うつむくあなたに手をさし出すわたし。

「ほら、みんながまっているよ。あなたもう一人じゃない」

 クスっ、とわらう主人公。

 そのみにのみこまれ、みもだえるあなた。

 閉ざされた世界がはじけ、ひきもどされる二人。

 とうとう、われに立ちかえった、われらのヒロイン!

 おろかさ――ピュアネス、イノセンス、正しさ、主人公たる資格――を標榜(ひょうぼう)するヒロインと、高齢者こうれいしゃから若返わかがえったすがたのあなた、そしてナカマたちとのくだり

「わたしは、あなたとはちがう」

「わたしは、ナカマをすてられない」

「私はあなたのようには、ならないわ」

「大事なものをすててまで、手に入れる強さなんていらない!」

「あきらめがわるいのだけが、私のとりえなの」

 ホントの強さってなに? ホントウの強さとは「やさしさ」「やさしさ」とは強さ。じゃあどうしたら「やさしく」=「強く」なれるの?

「ミンナがいたから、私はここまで来れた(強くなれた)!」

 力つきていたはずの少女たちが、フラフラ立ち上がる(イメージ)。

「あなただけには、負けられないわ!」

 たたかった、さいしょのあなたであり、今やライバルけん親友しんゆう

「自分だけ、いいとこ持ってくんじゃないわよ!」

 金髪きんぱつセミロング、主人公しゅじんこうより人気にんきキャラ。親友しんゆうポジ2。

「ブワヵは死んでも、なおらないわね」

 赤毛あかげショート。前期ぜんき主人公機しゅじんこうき後継者こうけいしゃ親友しんゆうポジ1。

「やれやれ、ここまで来たら一蓮托生いちれんたくしょう。さいごまでつきあうわ」

 むらさきのロングヘアー、イベント時にのみ参加さんか。キョリのあるキャラ。

「まったく、どいつもこいつも、もの好きなんだから」

 かたをすくめ、りょう手をひらくポーズ。ミドリがみ迷彩服めいさいふく。じみっ子キャラ。友だちポジ2。

「そういうあんたもね」

 ウィンクするショートカット、アタマにゴーグル。とうしょ男の子とまちがわれた。けっこう人気にんき)。友だちポジ1。

「ミンナ!」

 ウルウルじゅるじゅるの、ヒロイン。じつは人気にとぼしい。

「キッタナイわね」

「泣くんじゃないわよ、ブワヵ」

 親友しんゆうポジ1

 アイコンタクト、以心伝心いしんでんしん

「もうなにも、まよわない」

 することはきまった。

 うしないかけていたキボウをとりもどし、ふたたびミンナのココロが一つとなった。さあ、いよいよモノガタリは佳境かきょうへ、というパターンをなんどもくりかえす、gdgdの引きのばしの連続れんぞく

 すったもんだ二転三転四転にてんさんてんよんてんと、ラスボス候補こうほ交代こうたいをへて、ようやくこれでさいごと思ったら、ポッと出の女のラスボス登場とうじょう古参こさんのファンの、神経しんけいさかなでする。


 で、なんとか最終章さいしゅうしょう

 ミンナを一方通行いっぽうつうこうの設計主義(人間の理性を過信して、理想を打ち立てた思想)の未来みらいからすくうため、なーんか色々あったみたいだけど、とにかくしんじる気もちがカギとなり、さいごの封印ふういんは、今ようやくときはなたれるのだ!

 いきおいづく挿入歌(ヒロインの声優の曲)。はだかのシルエットのヒロイン。メタモルフォーゼの最終段階さいしゅうだんかいがはじまる。

 体育座たいいくずわりのまるまったまゆのポーズから、むねをはったエビぞりポーズへ。キラーンと、ネイルとペディキュアがきらめく。しぼんでたたまれたハネから、ピンッとはりつめた、かがやく白いハネへ。純白じゅんぱくのながいドレスのオーラを身にまとい、アタマにティアラをいただく。花吹雪はなふぶきがまい、教会きょうかいのチャペルがなりひびいた。

「カランコロン、カランコロン、カランコロン……」

 ロボットのせなかにも、アンジェリークな白いツバサがのびてゆく、8本全部がひらききると、マスクの口が「パカッ」とあき「シューーーーーッ」と、いきおいよく空気をふきだす。にぃーと、むきだしのぐきとキバをみせつけ、ダラダラよだれをたらし、ヒザをガクガク、ボディーこわばらせ、ガチャガチャ、カギヅメをかきならすと。

「ガォォォォォォォーーーーーーーーーーン」

 いだようにするど二日月ふつかづきにむかって、怒髪天どはつてんをつく咆哮ほうこうを上げた。

 まんをじして、最終形態さいしゅうけいたい「ウルティメット、ヴィクトリア、ニーケーΩオメガ」となった。

 ミンナのねがいをムネにたたえ、ちっちゃな二つのおムネは、もうはちきれそう。

「ドキドキドッキン、ドキドキドッキン」むねをかた手でおさえ、みもだえるヒロイン。もう、は~との限界値げんかいち

 ルナスティック――羽つき棒で先端はハート型。ワンクールごとにグレードアップしてアイテムが代わる――にたくす、この愛のエナジー。あなたのコドクにとどけとばかり、ときはなつピンクの閃光せんこう


「美少女デモクラティック、ハイパーエスカレェーション!(元気玉と同義、民主主義マンセー)」


 ホワイト・アウト。


 斗いカウンセリングは、おわった。きのうのあなたは今日の友。また一人トモダチふえたよ(は~とマーク挿入)。美少女戦士びしょうじょせんし149人目のナカマが、ミンナの前でモジモジしている。

 エピローグ。ナカマたちの不完全ふかんぜんだけどたしかな日常にちじょうが、たんたんとえがかれる。さんざんパワーインフレしまくった後、フツーが勝利しょうりをおさめたのだった。

 To be continued.

 作品さくひん内容ないようとむかんけいな、エンディングのタイアップのエンディング。紅一点こういってんのボーカルのバンド、ヴィジュアル系バンド、もしくは、年増としま声優せいゆうによる熱唱ねっしょう

 CMに切りかわり音量おんりょうアップ。二時間ドラマの常連じょうれんだった役者やくしゃによる、健康けんこうニンニクエキスのコマーシャル。

 子らはさっきまでの動揺どうようをわすれ、ぽけーと、さいごまで見ていました。

「ぽふっ」

 紙風船かみふうせんをわったような、破裂音はれつおがしました。

 ぷ~んと、異臭いしゅうが、ただよいます。

 すうーと、明かりがもどりました。

「ヒィヤァ!」

 女子のカナキリ声。

「ざわざわざわ」

「なにしてんだよ」

「なにしてくれちゃってるワケ」

「キャッチャーか、コーディネーターよべよ!」

「おまえが、よべよ!」

「おまえが、よべよ!」

「いや、おまえが、よべよ!」

「おまえがな!」

「おまえがな!」

「だまれ!」

「いっつ、ショータイム!」

「ひゅぅー」

「おまえがな!」

「おまえがな!」

「おまえがな!」

「おまえがな!」

「おまえがな!」

「おい、ホントにだまれよ」

「おまえがな!」

「カッコつけんなよ」

「おまえがな!」

「なんで大人は、いつもこういうとき、いないんだよ!」

「子どもが、なんかいってるぞ」

「子どもは、おまえの方だろが!」

「おまえがな!」

「おまえがな!」

「おまえがな!

「あー、うるさい!」

「おまえがな!」

「もりあがって、まいりました!」

「どよどよどよどよどよどよどよどよどよどよどよどよどよどよどよどよどよどよどよどよどよどよどよどよどよどよどよどよどよ」

 人が引いてポッカリできた空間くうかんに、男の子が一人たおれていました。全身を硬直こうちょくさせ、かたまっています。彼をのせたエアバッグの空気くうきが「ぷすぅー」と、じょじょにぬけていきました。しばらくすると、男の子の硬直こうちょくけたのか、こんどはリズミカルに、手足を屈伸・伸展くっしんしんてんさせはじめました。

 あたりの空気くうきは、ラベンダーのかおりと異臭いしゅうとがまじり合い、混沌こんとんとしていました。


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