出航
だが本当の旅人とは、ただ出発のために出発する人々だけだ
――ボードレール「悪の華」CXXVI 旅 (集英社文庫)
ソルは、はっとして、なにかを思い出し、
「ウィィン、ウィィン」
おれのこった
ソルが、もどってきました。
「なにしてたのよ」
「なにも」
「一人でぬけがけしようとするから、こんなことになるのよ」
「なるのよぉ~、これだから男子わぁ~」
マネをするニコライ。
「ねえ、この
「きたのとちがうよ」
マリにそういわれて、ジュリがソルの方をふりかえりました。
「
「ハッ?」
「とめなくたって、その気になりゃ、とびうつれるスピードだけどな」
「なにいってんの」
「だから、今がチャンスなんだよ」
「
「なにかってに、きめてるわけ?」
「わたしだって、
「ざんねん! もうパスワードいれちゃいました」
「オレのいうことしか、きかねーから」
ソルはウソをつきました。なめらかにつけたウソに「やっとオレも、人なみになれたか」と
「まず、マリからこいよ」
マリはジュリの方を見ました。
「ジュリが後ろに、つくんだろ?」
ジュリが
「なにやってんだ、はやくしろよ」
彼はなるべく、声をあらげないよう言いました。
ジュリは、まよっていました。
「ちょっとぉ、こんなとこにマリを、おいてく気?」
「タクシーよべばいいじゃん。せれぶなんだから」
「こんなとこにタクシーなんか、いないから。バッカじゃない(笑)」
「それにセレブじゃなし。アッタマおかしくない?」
「よべばくるよ、よべば」
「ためしに、よべば? 今すぐ」
「いいから、ほっといてよ」
「そっちこそ、なんでほっといて、くれなかったんだよ?」
「あんたが、みがってなことするからよ」
「ほーん。じゃぁ――」
「……」
ソルは、だまりこんでしまいました。もう、なにもかもメンドウくさい。このまま帰ってしまいたい。ぜんぶなげ出して、この場で
「ふぁ……」
生アクビが出ます。ねむくなってきました。
「いいや、もう……」
「すきにすれば」
まつりの日のお昼まえ、さびれた
よこっ
ヘリコプターの音が、バタバタ、なりひびいています。
ちかくじゃないし、いつものことだし、まさかね……。ニコライをのぞき、みんな
気づく人、気づかない人。ふりかえる人、ふりかえらない人。きょうみのない人、きょうみのないフリの人。人それぞれでした。これらの中でなん人の人が、
つごうがいいことに、
ソルはカンオンの
そろそろ
ソルは暗くなった外に出ました。
前方に開けた
かすかな
ソルは
「シートベルトをしろ! はやく!」
「ちょっとぉ、なに」
「はやくしろ、はやく」
「おちるぞ!」
「だから、なに!」
「たきになってんだ、この先!」
「はやくしろ!」
ソルは
カチャカチャ三人が、いっせいにやりはじめました。さすがに
「おちるって、どれくらい?」
ジュリがききました。
「しるかよ」
「しらないってよ」
まだちょっとだけ、よゆうのあるニコライ。
ベンチシートは三人ぶんのベルトしかなく、ソルは
シートベルトが見つからないニコライ。ソルが立ち上がって、おりたたみイスの
「なに、のんびりやってんだ。
「死」というコトバに、ドキッ、となって二人の手つきが早まりました。
ソルはあらんかぎりのキーワードと、GPSの
あせるソル。つま先だって
「バックできないの?」
ジュリにいわれ100パーセントむだ! と分かっていても、(カンオンに)どなりました。
「バック、バック、
ハンドル
「ガッ、ギギー、ガコッ」
ギヤが
「シュルシュルシュルシュルウィィンインイン……」
「……ダメだ。とにかく、ふんばってろ」
ジュリがマリをだき
「なにやってんだ、マリのことはほっとけ」
「手の力なんかじゃムリだから」
「シートベルトにまかせろ、みんな自分のことやってろ!」
とうとう前方のが
いっぺん
もう、おわったか? おそるおそる、立ち上がるソル。
「おわった?」
「……みたい」
「おわったの?」
「……まあ、いちおう」
そういえばあいつ、よく
うつむいていた
「――ンペッ」
赤いマーブル
「わっ」
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