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マンガにはストーリー、共感、感動はありません。 小説には、それらしきもの(捏造への意志)があります。

2016年03月

みなし児ヴィデオ・オレンジ 21 (兆し)

スマホ640pix



      兆し



 単純計算たんじゅんけいさんで引きかえすには、きた時とおなじくらいの時間が、かかるはずでした。だとしたら、やく一日半といった、ところでしょうか。それくらいのガマンは、ひつように思われました。

 なんの目やすもない、茫洋ぼうようとした海にとりかこまれ、いけのようなおだやかな波間なみまをゆくふね太陽たいようが高いときは、どちらにむかってすすんでいるのかも、よくわからず、じつは止まったままかも? と思うほど。巨人キュクロープスの目で見れば、白いヨットは模型もけいみたい。船首せんしゅ喫水線きっすいせんから船尾せんびまで、右肩上みぎかたあがりのまっぷたつに切りとって、カポッと青い波模様なみもようデコパージュにはめんだ、のかけた貧相ひんそうなスケールモデル。午後の幽霊ゆうれいねむりこけそうな昼下がり。時間をうしなった永遠えいえんの今が、局地的海上きょくちてきかいじょうにとどまっていました。

「コッコッコッ」つつくように、ときおり小さく咳払せきばらいするモーター。みんなをわれにかえそうと、ノックします。あらためて空気をすいこんで、しおのニオイをがなければ、海にいるのをわすれてしまいそう。さんざんしたしんだ、船腹せんぷくをうつ波音なみおとには、もうなれっこ。じぶんの心音しんおんみたいに、のうがやすやすカットします。かえって静寂せいじゃくがならす耳鳴みみなりをうち消し、おだやかな緩衝材かんしょうざいとして、外界がいかい遮断しゃだんするのに役立やくだっています。もはや人のたてる音しか、子らの耳にはとどきません。

 いつしかソルたちは、ふだんと変わらない時を、すごすようになっていました。海のまっただ中にありながら、エリゼにいるような、盤石ばんじゃくな地面に立つ建物たてものの中にいるような、そんな気ぶんに、どっぷりとつかかっていました。




「う”あ”あ”あ”あ”あ”あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 ニコライの絶叫ぜっきょうにドキッとしましたが、なれっこなので、みんなでスルーします。

「あ”あ”あ”あ”あ”あぁぁぁぁ××******×××××***×××***××あああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”××***×***ぁぁぁぁぁ――

 無意味むいみなコトバのられつに、彼の個性ほっさというべつの不安要素ふあんようそあたまをもたげ、みんなの心にかげがさしました。

「ヒマなんだぁよおぉぉぉぉぉぉおおおぅぅぅうううう!」

 意味いみのとおったコトバにてんじると、ホッとして、みんなはちょっとムッとします。

「きゅうに大きな声ださないでよ! そんなことは、みんなわかってんの」

 おこってジュリがいいました。

「だって。」

 ホッとしたマリが、ジュリにかぶせます。

「みんな、そうなんだよ。ニコライだけじゃないんだから」

 と、あいづちをうちました。

「あ”あ”あ”あ”あ”あああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」

「……」

 いちばんホッとしているのは、だまっていたソルでした。ふうー、セーフ。あぶない、あぶない。冷汗ひやあせが出ました。

「ヒマだ、ヒマだ、ヒマだ、ヒマだ、ヒマだぁぁああぁぁぁよぉおおぉぉぉぉ――

「だあー、ウッサイ! ウッサイ! ちよっとぉ、ソル! あんたもなんか、いいなさいよ。おんなじ男子でしょ!」

 おなじね……。ないしん、つぶやくソル。

「さっきやった、アメでもなめてろよ」

「もうない」

 ポツリというニコライ。

「?」

 なんのことか分からないソル。

「もうない!」

 大声をだすニコライ。

「しるか!」

 つられて大声をだすソル。

「もお、しずかにして! マリのおなかにわるいでしょ、赤ちゃんになんかあったら、どうすんの!」

 ジュリが一ばん大きい声で、どなっていました。

 だから、そんなことぐらいで氏なねえよ。まいど思うソル。

「じゃあ、みんなのカンオンで、なんかやる?」

 とつぜん、とっぴょうしもなく、ソルがいいました。

「???」

 あのソルからの、いがいな提案ていあんに、みんなはちょっとビックリします。

「どうせ、たいしたこと、できない」

 困惑こんわくぎみのジュリが、口数少くちかずすくなく無表情むひょうじょうで答えしました。

「いいんだよ。たいしたこと、できなくて」

「トランプゲームとかぐらいしか、できないよ」

 フォロ―するマリ。

「じゃ、それで」

 即決そっけつするソル。

「はぁ?」

 けんのあるかおをするジュリ。

「七ならべなら、わたしとくい!」

 きゅうに、はしゃぐマリ。

「なんでもいいから、やろう、やろう!」

 ゆかにりょう手をつき、パンパン足をたたくニコライ。

「……」

 むごんのジュリ。

「こんな原始的げんしてきなゲームつまらない」を連呼れんこしながら、それなりのめりこんでいるジュリと、まったくルールを、おぼえようとしないニコライ。出だしのカードうんのよいマリと、絶不調ぜっふちょうのソル。なんのかんのと言いながら、けっきょくトランゲーム大会は、たけなわになっていました。




 ふね照明しょうめいともりました。

 ひきつづきらすカンオンの光量こうりょうも、うっすら上がりました。まだ夕方には早すぎますが、みんな気にせず、トランプゲームをつづけていました。かすかに、なにかがはなにつきますが、ニコライをのぞいて、みんなだまっていました。

 水でいた漆黒しっこくを、うすくり重ねるように、じわじわ、暗くなってきました。どうゆうわけか、室内へや照明灯しょうめいとうが、おとろえてきているようです。エリゼの子らには、故障こしょうという思いつきが、すぐにはうかびません。カンオンが一足いっそくとびに、明るさの段階だんかいを上げてゆきますが、なぜかそれが、まわりに反映はんえいされませんでした。

「ねえ、なんか、くらくなってない?」

 ガマンできなくなったのか、マリが、さいしょに口に出しました。

「それになんか、ちょっと……」

 口ごもりました。

「……」

 あたりを、うかがうジュリ。

「なんか、クッセー」

 気がついたことを、すぐに口にするニコライ。

 ソルも気がついてはいましたが、対処たいしょのしようがなく、いっても不安ふあんがらせるだけなので、だまっていました。でも、とうのマリがいいだしたからには、もうしかたがありません。おおっぴらにまどの外を見やります。ふしぎなことに、室内へやの中と外とで、さほど暗さがかわらないのに、ソルは気づきました。

「ちょっと、見てくる」

 立ち上がって、ソルはドアへむかいました。

 ほほをなでるような、ぬるい微風びふういています。はらりと前髪まえかみがもち上がり、実験室じっけんしつのような異臭いしゅうぎ分けられました。

 金属きんぞくのように光る雲をすかして、太陽たいようがまだ見えています。つぎつぎ黒い雲がかぶさってきて、えたりあらわわれたりしています。空気がしっとりと水分すいぶんをふくみ、にぎったり閉じたりすると、手がベタつく感じがします。

「なんか、やばくない?」

 そうつぶやくと、彼はまわれ右しました。

 もどってしばらく、彼はだまったままでいました。

「……で?」

 ジュリがたずねます。

「そらが暗い」

 口かず少なく、しょうエネのソル。

「で?」

 ニコライが、かさねて聞きます。

「風が出てきた」

 といって、マリのほうをチラッと見ました。

「……」

 マリは、だまっています。

 しったからって、子らではどうにもなりませんが、制限せいげんつきのオンラインの局地情報ローカルじょうほうと、天気予想てんきよそうを、みんなで聞ききました。

 けっかは、すべて快晴かいせいをあらわす、笑顔えがおのおひさまマーク。カンオンを空気のように当然視とうぜんししている子らですが、モヤモヤは解消かいしょうされません。ますます不安ふあんがつのりました。子らにしてみれば、あらしがくるのがおそろしいのか、それとも、カンオンの予想よそうが外れることの方がショックなのか、よくわかりませんでした。どちらがどちらともいえず、たぶん、りょうほうでした。憶測おくそく不安ふあんをかきたて、子らの胸中きょうちゅうを、マーブル模様もようにうずまいています。ただ一つだけ言えることは、けっきょくさいごは、カンオンにたよるしかない、ということでした。

 だれもがあらしとか、台風たいふうとかいったコトバはつかわず、それをさけていました。いったら、ほんとうになるような気がして、いえなかったのです。

「で、けっきょく台風たいふうくんの?」

 あっさり、ニコライがいいました。

「こなきゃ、いいけどね」

 へいぜんをよそおって、ソルがいいました。

「くるわけないでしょ。あんたたちの予想よそうなんか、いみないから(笑)」

「だれも予想してませんなんか、してませんけど?」

「あ、そう」

「ダイジョ―ブ、ダイジョ―ブ。台風たいふうなんかこないから」

 マリをだきよせながら、ジュリはいいました。

 

フツフツ海面かいめんが、白くわき立ってきました。雨がはげしくうったかと思えば、ぽっかり空いたあなから、のんびりとした青空がのぞきます。オーロラのようなドレープをほどこした黄金おうごんはしらが海に落ち、またたく間に、しぼんで暗くなりました。

 また雨が、はげしくソルの顔面がんめんをうちつけます。雨つぶがいたいことに、おどろいて、彼は船内せんないにかけ込みました。

「ぬれたぬれた。ハズレたね、カンオン」

 ニヤッとして見せましたが、つらかわ一まいで、わらっているだけでした。

「で、それで、どうすんの?」

「どうするも、こうするも……」

「ひゅぅぅぅううううう、ごぉぉぉぉおおおおおおお! ざっぶん、ざばぁあ、ざぁぁあああああ!」

 まどにへばりつき、こうふんしているニコライ。なんだかちょっと、いやかなり、うれしそう。

「あんま、こうふんすんなよ、ぶったおれるぞ」

 なんかハラのたったソルが、いいました。

 ニコライがむっとして見かえし、女の子たちが、ビクッとなりました。彼がニコライの個性こせいにふれるポリティカル・コレクトネスをおかしたのと、それによっておきた、暴力ぼうりょく予兆よちょうおびえたのでした。

 すこしくらい、いってもいい権利けんり(?)が、オレにはあるのにな。と彼は思っていました。

「ちょっと、やめてよね、マリがこわがってるじゃない」

「またマリかよ。ちょっとは、じぶんのせいにしたら?」

「どういうこと?」

「なんでもないよ」

 ニコライはまどにかじりつき、ジュリは怪訝けげんな目つきでソルを見かえし、ソルはひらきなおったように、だまったままでいます。マリはかたまっていました。今なにかいったら、わるいことがおこりそうで、じぶんの足もとからすべてがくずれ落ちないよう、ただいのるよう、だまっていました。コトダマとその影響結果リアクションからの責任回避せきにんかいひを、みずからしゃべらないことで、享受たっせいしようとしていました。



 きょくげんまで、ふね照明しょうめいが落ちています。

「くらすぎんだろ、これ!」

 さけぶニコライ。

「おかしいよ。ぜったい、おかしいよ! なんでカンオンまで、明るくなんないの?」

 なっとくいかない、ジュリ。

 ソルは、だまっていました。ビビリをかくすためと、いくら憶測おくそくをならべたてても、無意味むいみだからです。彼は暗くなったカンオンをなぶったり、あたまの中でいのるよう、具体的ぐたいてき根拠こんきょさがしもとめていましたが、けっきょくムダでした。

 性懲しょうこりもなく、また彼は、光量こうりょうの落ちたカンオンをなぶりはじめました。いっこくも早く「うごく」理由いいわけがほしかったのです。しかし、不安ふあん解消かいしょうするための理由きっかけとなる情報じょうほうが、まったくなかったのでした。

「もおー、なにやってんのよ、ソル!」

「ぽぽぽぽぽーん」

「あーもう、やめた。しるかボケ!」

「つよいゆれに、ご注意ちゅういください。つよいゆれに、ご注意ちゅういください」

波浪警報はろうけいほう発令はつれい……

 風と船体せんたいなみがあたる音も、はげしさをましています。

「え、なに? なんていったの?」

「ぽぽぽぽぽーん」

「な・ん・で・も・な・い!」

「どなんないでよ!」

「つよいゆれに、ご注意ちゅういください。つよいゆれに……

「え、きこえない」

「な・ん・で・も・な・い!」

「ガンッ!」

 ブッツリせんが切れ、エレベーターが落下らっかしたような衝撃しょうげき薄暗闇うすぐらやみほしりました。

「いってーな」

「マリ、だいじょうぶだった?」

「うん、わたしは、ぜんぜんへーき」

 くらさや騒音そうおんより、とうめん問題もんだいにすべきは、物理的ぶつりてきな「ゆれ」であることに気づきました。ふらつくあたまでソルは、ふね強度きょうを聞き出そうとします。

 船長スキッパーのアヒルのドメストは、出てきませんでした。画像がぞうはなく、平坦へいたん男性だんせい音声おんせいと、白い文字もじだけでした。

 まず「これは外洋艇がいようていではありません。沿岸用えんがんようふねです。外洋がいようでは、残念ざんねんながら保障外ほしょうがいです」といわれました。

 船体ハル積層せきそうがうすいので船体強度せんたいきょうどは低く、全天候型ぜんてんこうがたのロングクルーズには不向ふむきです。とのこと。あとはスタビリティー消失角度しょうしつかくどが120度とか、なんとか、かんとか、チンプンカンプン……。

「ふむ。……つまり、どういうこと?」

 ニコライがたずねました。

「オレしーらね、だってよ。ようはうんだってさ」

「そんなの無責任むせきにん!」

「まあ、あれだ。さいしょっから、うんがよかったんだか、わるかったんだか。だいたいあれだ、ふねがうごくわきゃ、なかったんだな、そもそも。ほんとはあれだ、中に入れるワケなかったんだな、そもそも」

「いやー、まいったね。うんがよかったのが、うんのつき!」

 自嘲気味じちょうぎみに、わらってソルがいいました。

「どーすんのよ!」

るか、いのるかしてれば?」

 そういって、ソルは、せせらわらいました。

「ダメだ。おかしくなってる、この人」

 ジュリが、あきれていいました。

「もういい」

 はきすてるように言うと、暗がりの中、マリの手をとってふねのすみっこにいき、だきかかえあうよう、うずくまりました。

「つまんねー」

 ふてくされるニコライ。ベンチシートにもどり、足をかかえ、三人ぶんをつかって横になりました。

 ソルはリセットされたみたいな、じぶんの実存じつぞんが、債務超過マイナスにおちいった気ぶんになっていました。

 うつうつとしていましたが、ふと気がつき、ソルはさけびます。

「ダメだみんな、ちゃだめだ!」

「ちゃんとせきについて、シートベルトをしろ!」


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みなし児ヴィデオ・オレンジ 20 (凪)

スマホ640pix



      凪



 悪者――「孤独なものだけが悪い!」とディドロが叫んだ。そこで直ちにルソーは致命傷を受けた気がした。


      ――ニーチェ全集7「曙光」(ちくま学芸文庫)



 いけども、いけども、微動びどうだにしない黒いタンカー。とおくからのぞ岩山いわやまみたいに、かたくなに、そのすがたを変えてくれません。白い陽射ひざしかげをうばい、かくれを消しさります。あまりの図体ずうたいに、避難ひなんをあきらめた海の怪獣かいじゅうレヴィアタンが、おひるねをしているよう。赤いおなかをしずませ、べったりそべっています。ばけものじみた容積ようせきをほこるふねが、はるか沖合おきあい停泊ていはくしていました。

 小さなヨットは、波をかきわけ走ります。のないふねは、プレジャーボートぜんとして疾駆しっくします。まひるの太陽たいようかげをしぼり、テラテラ海面かいめんを、水銀すいぎんみたいに光らせます。空にはくも一つありませんでした。




 たった一つの目標物もくひょうぶつをうしない、後ろかべのような地平線ちへいせんは海にのまれ、ぐるりと、見わたすかぎりの水平線すいへいせん。空と太陽たいようと海。それいがい、なにもありません。風はそよともかず、海鳥うみどりかず、魚一ぴきねませんでした。


 子らは、時間がなくなったような感覚かんかくに、おちいっていました。それぞれカンオンでゲームを立ち上げ、時間つぶしをはじめています。しだいにがカクカクしてきました。クッソ重たくなり、やがてかたまりました。みんな、しぶしぶオフラインに切りかえ、あそびをつづけました。


 二度目にどめ食事しょくじをはさむと、すぐにウトウトに、おそわれました。船橋ブリッジの三人は、おひるねのまっさいちゅう。甲板デッキのソルは、くもの形を言いあてるのに、もう、あきあき。しかたなく、五周目ごしゅうめのローカルRPGに、とつにゅうしていました。

 ゆうだいな自然しぜんのまったただ中で、虚構きょこう異世界いせかい無双むそうするソル。いったいだれが、彼をわらえましょう? なんでもいいから、とにかく目あたらしいものを、志向物ヒマつぶしを、彼は渇望かつぼうしていました。それが人のさがでした。




 夜もとっぷりくれました。風はいでいます。しおのながれも止まったまま。さんざめく満天まんてん星灯ほしあかりの下、すべてが停滞ていたいしていました。今日一日の落差らくさたるや、午前中におきたことが、おなじ一日のできごととは、とうてい思えませんでした。星々ほしぼしのざわめきが、聞こえてきそうな夜。なみ船腹せんぷくにあたる音しか、聞こえませんでした。

 ほしは黒い盤面プレイフィールドに打ちこんだ、きらびやかな金釘きんくぎ。夜空の書割バックグラスえがかれた黄色い満月まんげつ。それへ、つきささるよう着陸ちゃくりくした銀色ぎんいろのロケット。人面遺跡じんめんいせきへとひた走る月面車ルナビークル。つきっぱなしのかたまったスコア。ぬるっとすべるフリッパー。だいじなところで横切る、いじわるスパイダー。ソルは甲板デッキに、ねころがっています。意地いじでも課金かきんしない、やりあきたピンボールの画面ホログラムを、無表情むひょうじょうで見つづけていました。

 ところでみんなは、一ばんだいじなことを、わすれていました。たび目的もくてき、および目的地もくてきちです。ソルはジュリたち他の三人に、まだそれを、たずねられていませんでした。聞かれたって、答えられやしませんが。なにしろ彼の目的もくてきは、出発しゅっぱつすることだったのですから。ゴールなんてはじめっから、なかったのです。

 どうせ、テキトーなトコで引きかえすだろう。てぢかな島にたどりつくだけだろう。よくあるミステリーツアーの茶番ちゃばんなんだろうと、みんなタカをくくっていました。たいくつな予定調和よていちょうわと見下しながら、ソルじしんも、けっきょくどこかで安心あんしんしていました。

 カンオンにゆだねることが最善さいぜんさくであるとは、すでに実証済じっしょうずみでした。それは、ゆるぎようのない、たしかな結果けっかであり、またその確率かくりつでした。今さら、ぼう大な一次資料いちじしりょうに目をとおし、個々ここ検証けんしょうし直すような酔狂すいきょうな人は、もはや、いませんでした。そんな懐疑かいぎ季節きせつは、とうにすぎさっていたのでした。

 万全ばんぜんすため、今現在いまげんざい検証けんしょうがなされている、といわれています。ある証明しょうめいがなされる時、それをているカンオンはべつのカンオンにられ、られているカンオンもまた、ちがうカンオンをている。カンオンはカンオンの監視者かんししゃであり、監視対象かんしたいしょうでもあります。どのカンオンも判断はんだんする主体性しゅたいせいをもち、かつその対象物たいしょうぶつでもありました。

 人は聞かされていました。全体的個ぜんたいてきことしてのカンオンによって、今も証明しょうめい証明しょうめいがされつづけていると。そこに不確定要素ふかくていようそである、人の入りこむ余地よちなど、まったくないのだと。疑問ぎもんをさしはさむ人は、そくざに問われます。安心あんしん効率こうりつをすてるだけの価値かちが、いったいどこにあるのだと。その結果けっかに、おまえは責任せきにんがとれるのかと。過剰な伝聞スキャンダル・コミニュケーション短期的たんきてき受動的信仰むいしき即製そくせいし、あらがいがたい空気となるのでした。

 ようするに、だれもわるくはないのです。なまけることは、最善さいせけん選択せんたくでした。はじめは警鐘けいしょうをならす人もいました。とうしょ、良識派りょうしきは無邪気むじゃき自認じにんする人たちは、すぐには浸透しんとうしないだろうと、楽観視らっかんししていました。「人はそんなにおろかかではない」とか。「歴史れきしに学べ、人はカンタンには変われない」とか。「私は信じる人の良心りょうしんを」とかなんとか。でもその期待きたいは、すぐに裏切うらぎられました。カンオンによる全面ぜんめんサービスが施行しこうされるやいなや、あっという間に、人はそれになれてしまいました。一部ですが、なぜもっと早くから、そうしなかったのか? という責任論せきにんろんさえ出るほどでした。

 自己正当化じこせいとうかが生きものの必然ひつぜんであるいじょう、それに積極的価値せっきょくてきかちを見出す人たちがあらわれるのは、とうぜんのなりゆきです。「いい時代になったものだ。これからは一億総隠居いちおくそういんきょの時代だ」とか。「じゅうよくごうせいす。受動的じゅどうてきなものに積極的価値せっきょくてきかちを!」とか。進歩しんぽと、とりちがえ「これは退化たいかではない、あらたな進化しんかなのだ」とか。さまざま解釈かいしゃくがなされました。しらずしらず市民らは、ひくい木になったブドウを楽々らくらく手にいれたような、きみょうなルサンチマン(恥辱感の正当化)ぷりを、はっきしていました。――ちなみに、ここでいうルサンチマンとは、劣等感れっとうかんや、不正ふせいに対するいかりではありません。情念じょうねんではなく、愚劣ぐれつな「解釈」のことです。自他未分じたみぶん快楽原則かいらくげんそくの世界を生きつつ、強度の低い言葉イメージ受動的じゅどうてき倫理りんり武器ぶきとし、自分につごうのわるい社会しゃかいを、さかさまに、無責任むせきにんにひっくり返そうとするこころみです。わかりやすくいえば、赤ん坊の記憶きおくを引きずったままの、そぼくな物質現実モノへの反逆はんぎゃくのことです。

 とはいえ、人ができるような仕事だけは、たっぷりのこされていました。気づけば、抽象的ちゅうしょうてき仕事しごとにつく人々は、自立民じりつみんとしてカンオンをもち、より具体的ぐたいてき仕事しごと従事じゅうじせねばならぬ人々は、自由民じゆうみんとしてカンオン・フリーな生活様式ライフスタイルをえらんでいました。市民は、おのずと分かれていったのです。いつしか、かまびすしい議論ぎろんも消え、カンオンは空気くうきになっていたのでした。

 みんながわるい時、わるい人は、だれもいなくなってしまいます。世間体せけんていというプロクルステスの寝台しんだいが、その社会しゃかい矯正装置きょうせいそうちが、はたらかなくなるからです。一人がおかしくなるのは、百分の一の確率かくりつですが、みんなにあっては、いつものこと。個にあく烙印らくいんをおせても、みんなであくには、なれないのです。だって善悪ぜんあくって、価値かちなんですから。個が貨幣かへい言語げんごをつくれないように、価値かちとは社会しゃかい意志いしそのもののこと。社会しゃかい自己正当化じこせいとうかのこと、なんですからね。

 だからそう、わるい人なんて、だれもいなかったのです。




 二日目。


「ちょっとお、なにやってんの!」

 とつぜんジュリが、おこりだしました。

「?」

 びっくりするソル。

「水がないじゃない、水が」

「……は? だって、のんだじゃない、きのう」

「きのうのうちに、わかってたんでしょ!」

「うん、おまえもな」

 彼はぐるつと見まわしました。マリもニコライも、カンオンが、あいてをしていました。

「みんな、そうじゃん」

「どうすんの、そのカバン(ナップサック)の中に、なんか入ってないの」

「ないよ」

 即答そくとうするソル。

「どうすんの、もう食べもの、みんなないよ」

「いや、しってるけど。しってたでしょ?」

「しってる、しってない、とかじゃなくって。だから、どうすんの!」

「しらんよ。かえれば、いいじゃん」

「はぁ? どーやって」

「いや、しらんよ」

「もういいから、かえして。あんたが、かってにつれてきたんでしょ。もうじゅうぶんあそんだし、気がすんだでしょ? ハイハイ、もういいから。とにかく、はやくかえして」

「だから、さいしょっから……」

 ソルは口をつぐみました。ためいきをついてから、ナップサックを手にとると、ゴソゴソ中を物色ぶっしょくしはじめました。すぐにメンド―くさくなって、さかさまにふりました。 

 他の荷物にもつにまじって、ミネラルウオーター、ばらのキャンディ、子袋こぶくろのビスケットが、ゆかにころげました。

「ほらよ」

「うっわ、サイテー。あるじゃない」

「ふひょー、くれくれ!」

 のりだしてくるニコライ。

「ダメ! マリがさき」

 たしなめるジュリ。

「じぶんさえ、よければいいの? じぶんさえ!」 

「そうだよ。だからついてくんなって、いっただろ?」

「いついったの?」

「……」

 ソルは絶句ぜっくしました。こうなんだ。これがふつうなんだ。と言い聞かせ、気力をふりしぼって切りかえます。

「いいから、空のペットボトルに、みんなのぶん分けろよ」

「よかないわよ、マリには多めにだから」

「えー、ダイジョ―ブだよ。わたし」

 こまりがおで、いちおう、ことわるマリ。

「いいの、あなたじゃなく、赤ちゃんのぶん。これは人命救助じんめいきゅうじょなんだから」

 ほほえむジュリ。

 ケッ、いちいち大げさ。一日いちんちくらい水のまなくても氏なねーよ。目の前のやりとりが、ソルには、おしばいのようにうつっていました。

「あと、かえるんだから、ふねもどして」

「まだ、あんのかよ、もうさぁ、すきにすれば……」

「いちばん、だいじなことでしょ。なにいってんの」

「しってるよ。だから……」

「あきれた。パスワード登録とうろくしたのじぶんでしょ。あんたのいうことしか、きかないんでしょ。わすれたの?」

 なかなか、うごかない、うごきたくないソル。

ふねにいえばいいだけじゃないふねに。カンタンでしょ。さ、はやく」

 しぶしぶソルは、必要ひつようもないのに立ちあがりました。

ふねをもどして。りくにむかって。もとのところに」

 わざわざカンオンにむきなおって、滑舌かつぜつよくいいました。

 米粒大こめつぶだいの青い光がカンオンにともると、空中にうかんだワクの中で、赤いラインがねます。それがパッと、グリーンになりました。(このアイコンはデフォルト仕様です)

「あとは、しらんよ」

 たおれるようっころがり、立てヒジついて、ゲーム画面がめんに切りかえるソル。ジュリが仁王立におうだちのまま、しばらく、じっと見下ろしていました。

「じぶん、かって、なんだから」

 なぜか彼女も滑舌かつぜつのよい、すてゼリフをのこし、いってしまいました。

「へへ、おこられてやんの」

 ニコライが小さく、ささやきました。


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みなし児ヴィデオ・オレンジ 19 (鳥)

スマホ640pix



      鳥



 おお 季節よ 鳥よ

 無疵な魂など、どこにいよう


      ――ランボー全詩集 「地獄の季節」(ちくま文庫)より改竄


 カンオンにうながされるまま口をあけたニコライは、紫外線照射殺菌しがいせんしょうしゃさっきんをしています。それぐらいしか応急手当おうきゅうてあてはできませんが、あさいキズらしく、唾液だえきをはき出すたび、その赤がうすれてきていました。

「ンペッ、ペッ、ペッ」

 ジュリとマリが「きたないものを見るように」ではなく、まさに、きたないものからかおをそむけていました。

 ニコライの表情かおからはいたさより、そのマズさによる、不快感ふかいかんが見てとれました。ふきげんそうに、大人しくしているニコライ。トラブルメーカーの彼に「とりあえず、そのまま、大人しくしていてくれ」とソルは、ねがっていました。

 ソルはナップサックをあさって、グレープキャンディーをとり出し、ニコライにあげました。あじ色味いろみでごまかし、とうめん、やりすごそうというわけです。遭難中そうなんちゅう(?) の密室みっしつに、緊迫感きんぱくかんのない、アマイにおいがちました。

「くぅー」

 マリのおなかが小さくなっても、ソルはしらんぷりを、きめこんでいます。やさしさではなく、この先をみこして、ここでかぎられたナップサックの食糧しょくりょうを、わたすわけにはいかなかったからです。彼はジュリたちをろすチャンスを、うかがっていました。まだそのチャンスは、じゅうぶんのこっていると思っていました。今のところ、単独航行たんどくこうこうが彼の中での既定路線きていろせんであることに、なんの変わりもありませんでした。

 キラキラなにかが、室内しつないで光り出しました。まん中に光があつまると、おなじみのドメスティック・ダックのテーマソングとともに、アヒルのキャラクターがあらわれました。船長スキッパ―のアヒルは、黄色い月桂樹げっけいじゅ刺繍ししゅうの入ったキャプテンぼうをかぶり、おしりをフリフリ歩きまわります。

「グワァ、グワァ、バン!」

 おたから地図ちずと白いフキダシがうかび、指示棒さしぼうでそれをたたきました。フキダシの中のネーム字幕で、説明せつめい補足ほそくしていました。

 ピンク色の経路けいろが、ゆかにうかび上がりました。ジュリが数歩すうほたどると、かべの横っちょで、矢印やじるし点滅てんめつしだしました。くぼみの中のレバーを回すと、カパッとカバーがはずれます。空洞くうどうの中に、銀色ぎんいろ遭難緊急袋そうなんきんきゅうぶくろがのぞいていました。

「パチパチパチパンパンパン……グワァ、グワァ!」

 手と足をたたいて、よろこぶアヒルのドメスト。

 さっそく中みをひろげると、さまざまな遭難対策そうなんたいさくグッズと、食料しょくりょうがはいっていました。

「えーあるなら、さいしょっからいってよぉ。ねぇーもぉぅ」

 ジュリがマリに同意どういをもとめながら、あきれがおでいいました。カンオンにしては、タイミングにおくれをとったのは、ふだん使われていないふねとの同期どうきに、手間どったせいかもしれません。

 ふくろの中から、カン入りビスケット、シロップづけのフルーツのカンヅメ、切れているサラミソーセージ、ミネラルウオーターなどをえらびました。ブツブツ、ペッペッいいながら、けっきょくニコライも食べていました。

 食事しょくじといより、おやつが終わったら、こんどはトイレです。さっこん、立ちションになれたソルは「外ですりゃいいじゃん」と思っていましたが、とうぜん口には出しませんでした。

 ふたたび、アヒルがあらわれました。ピンクのリボンがあたまにつき、声音こわねも高くなっています。ジュリとマリを、水色に光った後のドアまで、ていちょうにエスコート。せせらぎの音と鳥のさえずりが、ながれはじめました。

 しらぬ間にエアコンが入り、室温調整しつおんちょうせいがはじまっているのに気づきました。心をしずめる効果こうかがある、モーツァルトのピアノソナタの調しらべも、ささやくくらいのしずけさでっていました。

 なんだか、ぶぜんとするソル。たしかにベンリ。ベンリはベンリ。もんくのつけようも、ありません。どう考えても、だれもわるくは、ありませんでした。

 小さな合流点ごうりゅうてんをいくつかしはさみ、つぎの大きな合流予定点ごうりゅうよていてんが、ちかづいてきました。とお目から見るはし欄干らんかんは、今までになく、やけにハデに見えます。あの特徴的とくちょうてきな、七色のカラフルな原色げんしょくは、見おぼえがありました。あれはソルが、はじめてホルスと出会った日の、帰り道にわたったフェンリル大橋おおはしでした。

 独特どくとくなおこうのニオイと、けたたましいりもの。葬列そうれつみたいな黒装束くろしょうぞく。その異様いようなパフォーマと、うさんくさい演説えんぜつ狂集団きょうしゅうだん異様いようさにとりまかれ、すみっこを、かくれるよう足早にとおりすぎた、あのはしでした。

 川の合流点ごうりゅうてんは、色がはっきり分かれ、ツートン・カラーになっていました。透明度とうめいどがちがうのか、それとも、水の成分せいぶん微妙びみょうにちがうのでしょうか。

 はしにちかづいてゆくと、ゴウゴウと、うなる水の音しかしなくなりました。とぎれとぎれに、交差点こうさてんの明るい童謡どうようが、まじって聞こえました。

 昼夜ちゅうやを分かたず、ずっときっぱなしのキリンの照明灯しょうめいとうが、お日さまの下こうこうとっています。ふねは色の変わり目をなんなくこえ、すべるように、すすんでいきました。

 スーパー堤防ていぼうごしに低い建築物けんちくぶつは見えませんが、生活臭せいかつしゅうがだいぶうすれてきたのは分かりました。高層こうそうのオフィスや、複合商業施設ふくごうしょうぎょうしせつなどもまばらになり、しおのかおりが、いちだんと濃厚のうこうさをましています。もはや、うたがいようもなく、海がちかいのです。ソルは、あせりはじめました。

 堤防ていぼう途切とぎれがちになり、すでに生活圏せいかつけんでも商業圏しょうぎょうけんでもなくなっているのが、容易よういにわかりました。そうでなくても、もはや建物たてもののサイズの次元じげんが、完全にちがっていました。

 てつくずドロボウがヨダレをたらしそうな、累々るいるいと組み上げられた、むき出しの鉄骨てっこつ。マッチぼうでも組むかのように、おしげもなくみこんだ、工場こうじょうやコンビナートの棟々むねむねてつ要塞都市ようさいとしが、白い帽子ぼうしをかぶり、プロパンのニオイを、ただよわせていました。

 ソルの思惑おもわくとはおかまいなしに、ずんずんふねは、すすんでいます。迷子まいごになりそうなほど、だだっぴろい草ぼうぼうの更地さらち。ピカピカの、プレートのない新車しんしゃ整列せいれつする、アスファルトの駐車場ちゅうしゃじょう。ますますくなるしおのかおり。ふねは海の手前にいました。

 赤白だんだらの、トロイの木馬もくばみたいな大きなクレーンが、何機なんきも見えてきました。気づけば、目の前をさまたげるものは、もうなにもありません。

「なんだ、きちゃってるじゃん」

 ニコライ。

「ねーこれ海だよね、ほんものだよね?」

 マリ。

「うん、とうとう来ちゃったね」

 ジュリ。

「……」

 ソルはデッキに出ると、海風うみかぜに少しよろめきました。

 はじめての海。彼にとって、はじめての海でした。

 開けはなたれた青。その広大な質量しつりょうをたたえる虚無きょむ。カラッポをみたす大気のかさと、視界いっぱいの水嵩みずかさ。夜までつづく空と、かくれた深度しんど。たった二色の、青と白の色調しきちょうが、むげんにたわむれています。

 ややもすれば、奥行おくゆきをうしないかねない肉眼にくがんに、すべてがおさまり切っているという矛盾むじゅん巨大きょだいさからくる恐怖心きょうふしんより、不全感ふぜんかんしかないソルは、なんだか、だまされているような気がしました。それが彼の、はじめての海の印象いんしょうでした。

 ソルはため息をつきました。海風うみかぜが正面からきつけます。彼は、あきらめました。このまま四人でいくしかありません。マリをのこして、三人も外に出てきました。

 ギラギラ銀色ぎんいろに光る、広大な三角波さんかくなみのパッチワークが、どこまでも、どこまでも広がっています。

 チャプンと、ちっちゃなトビウオがはねました。

「うおーい!」

 ニコライが手をふります。漁船ぎょせんではたらくおじさんも、手をふりかえします。ソルもヤケになって手をふりました。

「おーい!」

 ソルは思い立って船橋ブリッジにもどり、はこをかかえて出てきました。落ちないよう足ではさみながら、黒い物体ぶったいをとり出しました。

「なに、それ?」

 ジュリがたずね、ニコライが注視ちゅうしします。

「鳥」

「鳥だよ。オレの鳥」

「鳥って、これが?」

「すっげー、ブサイク」

 ソルはクランクをクルクル回し、ゴムのをつくっています。エリゼで試験飛行しけんひこうができなかったので、ほぼ、ぶっつけ本番ほんばんです。

「バサバサッ」

 手をはなし、すぐ止めました。確認完了かくにんかんりょう。ちゃんと、はねは動きました。考えをめぐらせ、立ちつくすソル。「えっと、他になんかあったけ?」なーんか、わすれているような気がします。だんだん、心細くなってきました。

 あーもういい! メンドくさ。あったらあったで、かまうもんか。そん時ゃ、そん時だ。

「とばすぞ!」

「ちょっとぉ、ここで?」

「アホか、海におちるぞ」

 ソルは自分に、いいます。

「いいから、とばすぞ!」

 二三歩助走にさんぽじょそうをつけ、むかい風にむかって、なげました。

「あ、バカ」

「なにやってんの!」

 二段三段にだんさんだんと空気のだんびこえ、風にあおられながら、大きく旋回せんかいする黒い鳥。横っ腹よこっぱらに風をうけ、ヨタヨタななめにとんでいます。

 ふね並走へいそうするように、カモメが数羽すうわとんでいました。生あるものは風にのり、ムダに羽ばたかず、ホバリングでもしているかのよう。その中の一ぴきが好奇心こうきしんにかられ、黒い鳥にちかよっていきます。

 ほんのちょっと伴走ばんそうしたたけで、すぐに興味きょうみもしくは敵愾心てきがいしんをうしない、さっていってしまいました。

 ちょうど一周いっしゅうしかかったところで、強い風にあおられました。不安定ふあんてい姿勢しせいでモロに風をうけ、失速しっそく放物線ほうぶつせんをえがき落ちました。

「ポチャンッ」

「あ~あ」

 二人がいいました。

「あ~あ」

 わらって、ソルもいいました。

 まあいいや、とにかくこれでおわった。そう思うと、彼はきゅうに、みがるになった気がしました。


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