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マンガにはストーリー、共感、感動はありません。 小説には、それらしきもの(捏造への意志)があります。

2017年04月

みなし児ヴィデオ・オレンジ 36 (ノード 2 結節点)

スマホ640pix



      ノード 2  結節点


 ソルのカンオンは、さいど、異質いしつ電波でんぱをキャッチしました。いったん見失みうしなったそれは、また復活ふっかつし、力強くみゃくうちはじめました。それはカンオンにかぎりなくちかく、びみょうなところで、ちがっていました。カンオンはいこまれるよう、そこへむかって急突進きゅうとっしんをかけます。

 銀行ぎんこうにつくと、つぎつぎ障壁しょうへきとなる物理ぶつりドアを、突破とっぱしていきます。ほぼ手動式アナログしきですが、ほそ長いワイヤーアームをくりだし、カチャカチャ、つぎつぎ、こじ開けていきました。

 カンオンが実力行使じつりょくこうしにうったえるのは、ひじょうに、めずらしいことでした。カンオンの実力行使じつりょくこうしには、おもに四つの条件じょうけんありました。

 一つ、人のいのちにかかわるとき。

 一つ、物理的ぶつりてきにかぎった、違法行為いほうこうい阻止そしするとき。

 一つ、それが違法いほうではなくても、反社会性はんしゃかいせいうたがいが、きわめて強いとき。

 一つ、該当事件がいとうじけんにかかわることのできる人間が不足ふそくしているか、まわりにいないとき。

 などでした。

 目の前でおきている事象じしょうがこれらの条件じょうけん合致がっちし、さまざまに見做みなせる諸要素しょようそ減点方式げてんほうしきをへてなお、その事例じれい規定きてい数値すうちを上まわるとき、ようやく人をおびやかすおそれのある、その強権しゅうだんてきじえいけん発動はつどうさせることがでました。あたりまえですが、これらの原則げくそく厳格げんかくにまもられていました。

 かんちがいされるといけないので、なんども重複じゅうふく覚悟かくごで言いますが、カンオンは抑圧的管理者スカイネットではありません。それを規定きていしているのは、徹底的てっていてき人間尊重主義ヒューマニズムであって、あくまであるじは人間なのです。

 カンオンはけっして、でしゃばりません。カンオンへの付託ふたく主体性しゅたいせい一部譲渡いちぶじょうとは、グレート・チェンジの一環いっかんとして、時の政府せいふ審議しんぎによる審議しんぎのすえ、選挙権せんきょけんをもたぬ外国人みっこうしゃをふくむ全世代ぜんせだい対象たいしょうとした、完全国民投票ちょくせつみんしゅしゅぎゆだねられることによってまりました。そしてそれは、今も定期的ていきてき代理人だいりにん代表選挙だいひょうせんきょをつうじ、更新こうしんされつづけているのです。このものがたりの冒頭ぼうとうでもいったように、カンオンは「人の心のつえ」として、市民しみん社会くらしの中で、空気のように存在そんざいしているのでした。

 カンオンは地下室ちかしつに入るやいなや、フジツボの生殖器官ペニスのような、ほそ長いシールドをつなぎ、情報共有コピー開始かいししました。ギュゲスノ指環ゆびわ特殊とくしゅカンオンを顕在化けんざいかさせても、武装解除まるはだかにしたわけではありません。それにはじか接触せっしょく必要ひつようでした。

 ばく大なりょうですが、テクノロジーの無遠慮ぶえんりょ発達はったつは、ようしゃなく巨鯨くじら丸呑まるのみしていきます。ついでにちゃっかり、たりないエネルギー補充ほじゅうもすませました。なにしろ彼らには、所有しょゆうという観念フェティッシュがないのですから。



 またしてもアラーム。

 心臓しんぞうにわるい警告音けいこくおんが、ひびきます。

 一気に、かおからの気がうせるおじさん。靴底くつぞこで水をとばし、走ってくるまにもどります。

 赤、黒、赤、黒、と踏切ふみきりランプみたいに、画面全体がめんぜんたいが切りかわっています。

 黒で止まりました。

 黒の画面がめん。青いおじさん。

 膠着状態こうちゃくじょうたいが、つづきます。

 赤が目をき、画面がめんが開かれました。

 ストーンズのマークみたいな、クチビルお化け登場とうじょう

 大口を開け、ベロをびろーんと、二まい出しました。見るまに、三まい五まい十まいと、びらびら肉盛にくもり、てんこりで増殖ぞうしょくさせてゆきます。

 原色げんしょく氾濫はんらん雑音ノイズ洪水こうずい。タイガーバームガーデンの原色のオブジェ、花屋敷はなやしきのメランコリア、ボマルツオの怪物かいぶつたち。色彩しきさい形態けいたい逆巻さかま渦巻うずまき、チンドンかロンドンの街頭音楽師がいとうおんがくし一団いちだんのような、恐喝きょうかつまがいの大音量だいおんりょうをがなり立てます。

 ブリブリ音をたてる黒檀色こくたんいろのフェイクレザーのソファに、だらしなく撓垂しなだれかかり、フーッと、アンニュイに長煙管ながぎせるをふかす、大都会だいとかいのやさぐれ女クチビルお化け。黒みがかったクリムゾン色(濃い赤)のロングドレス。スリットの深い切れこみからのぞく、白い練馬ザダイコン。それをムダになんども入れえながら、目玉めだまのような孔雀くじゃくはねで、三びきのマンチカンをじゃらしています。

 さけクサいいきであたりをめ付けると、だれかれかまわず公平こうへい因縁いんねんをつけ、口ぎたなくののしり、くだをまく。そうせねば氏ぬとばかり、句点くてんのごとく語尾ごびにつける、フォーレターワーズ。口と肛門こうもんから白い薔薇バラの花びらつめ、両中指りょうなかゆび立てて二穴にけつつっこむも窒息市ちっそくし。それを見てわらい痔にする、ザムザの家族かぞくと友人。えんずるはなみだわらいいの悲喜劇ひきげき。プログラムを切り張りする百頭女ひゃくとうおんな。すきを見てそれを母親ははおやいもうと。エーリッヒ・タウベ(飛行機)からにげるロプロプ鳥、キビヤックのようにはと子孕はら百頭女ひゃくとうおんな。ゲオルグ・グロースの低劣ていれつ風刺画ふうしがに引っかかった右万字みぎまんじ傷口きずぐちからせる茶色い羊水ようすい洪水こうずい温泉街おんせんがい射的場しゃてきばに、色とりどりのベルランゴねじりあめはねむしられた雛鳥ひなどりじみた菊人形きくにんぎょう。おなかでらす人間ポンプの、びいどろおはじき。消えた坂柱いみり。梶井基次郎の好きな安っぽい色模様いろもよう鼠花火ねずみはなびに火を点け、ドンパッチかじってゲップしたら、バックファイヤー! 反動はんどう放屁ほうひしました。

 アサクーサで売っているような、カープ(鯉)がウォーターフォール(滝)をのぼるがらの、エスニックなキモノ。それを外人みたく、素肌すはだおびなしのバスローブ風に着て、長イスにそべるクチビルお化け。一見しどけないポーズ、しかしムリのある姿勢しせい。アングルの「グランド・オダリスク」四回ひねりのような胴長どうながねじりを、クルクルッと解消かいしょうし、横ざまキセルを行燈あんどんにたたきつけ、ストローマット(畳)にはいを落としました。またメジャーのようにどうきとり、クチビルは立ち上がります。

 前の合わせがはだけると、マンキー・ポンチっぽい貧相ひんそうなスネ毛の線足せんあしの間から、ポニー一頭分いっとうぶんなまずが「でろん」と落っこち、空をうつよう痙攣けいれんしてねっかえりました。

 こしをぐるんぐるんグラインドさせ、ゆっさゆっさとゆらすと、キャップをかぶった肩幅かたはばのひろいスイマーみたいに、バタフライでペコペコお辞儀じぎします。

 とかいってるうち――

 アレレなんか変? 

 ほほを赤らめ口に手をあて、しなをつくり、もじもじしています。

 と思ったら、

 りょう足はさんで、女の子になっちゃった! (マギー審司風)

 どんどん、悪趣味あくしゅみがましていきました。

 画面がめんいっぱいまでちかづき、ど・アップ。こそぐよう画面がめんめると、こちらにむかって粘質ねんしつなツバがにじみみ出てくる、ニオイ立つような3Dのだまし絵。

 大地と空気をつんざく終わりのないさけびに、タッチパッドがバイブで、おののきふるえ、とりこのクチビルは耳をふさぐ。

 やがてわらい。ナミダのハテ莫迦バカわらい。クチビルは哄笑こうしょうでもって、画面がめんをゆさぶる。

 ピッ、とクチビルに縦線たてせん

 至極色(黒紫)まじりのがふき出すと、シワのかずが一本、十本、百本と爆発的ばくはつてきにふえる。

 五蘊ごうん(人間の構成要素)の衰滅すいめつのスキ間から、むらさきのツブまじりの黄色きいろいガスをはきだし、クチビルは、だんだんしぼんでいく。

 おちょぼ口になって色あせ、やせ細って手足がなえ、つえをついた三本足

 よろめいて、四つんいになってたおれふし、大地と口づけ

 再会わかいしました。

 ちぢこんだクチビル。こげ茶色ちゃいろのミイラになって、かたまったまま。

 ぴゅーと、風がふきました。

 枯葉かれはが一枚、ひらひらっと、とおりすぎました。

 その土くれはサラサラとくずれ、風にはこばれてゆきました。


 だんだん、モニターから光がうしなわれていきます。

 とうとう、黒くなりました。



 なすすべなく画面がめんを見つめている、おじさん。

 しばらく、絶句ぜっくしていました。

 とつぜん、スイッチが入ったように、

「ふぁ~」

 ナミダメ目の生あくびで、のびをしました。

「で?」

 スマートな笑顔えがお

「これって、だれの責任せきにんになるんだ?」

 となりに人がいるみたいに問いかけました。



 間一髪かんいっぱつ、まにあいました。特殊とくしゅカンオンが、外部からの侵入しんにゅうをキャッチすると、シグナル伝達でんたつをへて、浮島内うきしまない浮島うきしまである、アポトーシスソフトが起動きどう自殺じさつ開始かいししました。

 いっぺんには氏にません。すなとり合戦がっさせんのごとく、浮島うきしまをアイスのぼうとし、じょじょに周辺部しゅうへんぶから消滅しょうめつさせていきます。さいごのラインをつかって、特殊とくしゅカンオンのネットワークのいくつかに、最小限さいしょうげんのデータと侵入経緯しんにゅうけいいを、ブラック・ボックス化して発信はっしんしました。

 さいごは念入ねんいりに自動出火じどうしゅっか。フォレンジック・ツール(訴訟対応のための証拠保全をするもの)で情報じょうほうをサルベージ(引上げ)されないために、物理的ぶつりてき証拠隠滅しょうこいんめつをはかります。といっても、耐火構造たいかこうぞうの中の、防火材ぼうかざいにかこまれた内部だけですが。そこが、くすぶりはじめました。

 ニオイを感知かんちして、カラカラまわっていた換気扇かんきせんが止まりました。ここには火災報知器かさいほうちき自動消火装置じどうしょうかそうちはなく、消火器しょうかきが山のようにあるだけでした。




 ソルはてら神社じんじゃかよくわからない、草の生いしげった領域りょういきに入りました。古い木造もくぞう建物たてものが、かしいでいました。屋根やね湾曲わんきょくし、かわらはなかばすべりくずれ、構造全体こうぞうぜんたいがひしゃげていました。

 正面しょうめんに、まっぷたつにれた木のボードがブラ下がり、落ちかかっていました。チャイニーズ・キャラクター(漢字)が黒くペイントされ、黒ずんだ木と同化どうかして判別はんべつできませんが、見えたとしても、彼にめるはずもありません。

 うらの方から音がします。草をかきわけ近づくほど、チャカチャカはげしさをまし、目の前まできて、やっとそれが水の音だとわかりました。外れたかけいから、水がこぼれ、そのまわりでみどり草木そうもくが、いきいきと芽吹めぶいていました。

 それを手にすくって、彼はおそるおそる、口にふくみました。ほっぺにためこんだだけで、けっきょく出してしまいました。

 また口に入れます。いきのつづくかぎりなやんだすえ、かわきにてず、のどをらして下しました。彼は二本ある500mlペットボトルのうち、なくなりかけの一本をすすぎ、つめなおしました。

 ソルはふくをぬぎはじめました。上着をぬぎ、ショートパンツをぬぎ、ちょっとまよってから、下着したぎまでぬぎました。まっぱだかのペールオレンジが、みどりえました。

 先にハンドタオルをあらいます。速乾性そっかんせいなので、それで体をこすった後、体の水ぶんをぬぐうつもりでした。そんきょの姿勢しせいでしゃがんで、ヘビイチゴのを足でつぶしながら、ふくからだあらいました。上をむいて口をあけ、水をガブガブのみしました。

 赤い点々が着いたふくはナマがわきですが、さして不快感ふかいかんはありません。それもすぐ、かわいてしまいました。

 やっと、一息ひといきつきました。

 あらためて、まわりに注意ちゅういをはらうと、さいしょからにおっていた、オガタマノキの大木を見つけました。



「クソッタレ!」

 タッチパッドの画面がめんは、まっ黒でした。

 あかるさをともなわない単色たんしょくで、見るからに液晶えきしょうの地の色でした。

「クソッ、クソッ、クソッ!」

 もうなにもうつらなくなった画面がめんを、おじさんはバンバンたたいています。

 きゅうにしずかになって、タメいきをつきました。

「――まあいい」

ふるいもんだ。どうせ、いつかはこうなる」

「それに、こっからじゃ、なんもできねぇし……」

 たしかに、うすいグレーのタッチパッドは黄色味きいろみがかっていましたが、オレンジの電源でんげんランプはいていました。おじさんは「タッチパッドの故障こしょう」という願望がんぼうにしがみつきたかったのですが、彼は仮病から病気をでっち上げられるほどの、べんりなシャーマン、メンヘラ体質たいしつではありません。子度藻の時からそうでした。ふとんの中で「ほんとうに、おなかが、いたくなればいいのに」と思っても、そうつごよくはなれず、技巧ぎこうによるズル休みしかできなませんでした。あるいみ生まれつき、そんな倫理的気質りんりてきタチ持主もちぬしでした。

 足でドアをしあけると、サンダルがするっとぬげました。

「ちぃっ」

 いまいましい声をあげ片足かたあしで下りると、バランスをくずし、りょう足をついてしまいました。

「クソ!」

 ぬれた足先をつっこみます。

 ふりかぶって、思いっきり地面じめんたたきつけると、タッチパッドはね上がって、たて回転かいてんでころがり、ガードレールの下から落ちました。すぐさま斜面しゃめんの草むらが、それをかくしてしまいました。

 でも、だいじょうぶ。行内こうないにはオークションで購入こうにゅうした中古のスペアが、まだ、たくさんのこっていました。


みなし児ヴィデオ・オレンジ 35 (ノード 1 こぶ)

スマホ640pix



      ノード 1 こぶ


――まえぶれもなく光がさし、画面がめん復活ふっかつしました。

 おじさんのかおにも、あかりがさしこみます。

「なんだ、おい」

 画面がめんにかぶりつくおじさん。

 しばらく、じっと見つめています。

「なわけない、なわけない」

 力んだりょう手でタッチパッドをつかんだまま、

「むこうがこわれるなんてあるか?」

 きゅうに、きげんのよくなるおじさん。

「ないない」

 かた手をふって、

「なわけないんだよなぁ」

「だと思った」

ってた。こっちの不具合ふぐあいって(笑)」

 ためこんでいた、いきをはき出しました。まだ半信半疑はんしんはんぎですが、とりあえず、最悪さいあく事態じたいはさけられたようです。

「ようは、なにもおきてなかったんじゃん」

「なんだ……」

 しあわせを、かみしめるよう、口をつぐみました。

 おじさんはタッチパッドを助手席じょしゅせきになげ、外に出ました。

 ふとももに手をつき、ドアにもたれると、おしりがジワッとなりました。

 大きくいきをすって、

「ふっざけんな、莫迦やろう!」

 大声をだし、たまったストレスを発散はっさんさせました。

 しとしと雨の中を、あたまからかぶるよう雨にぬれ、ブラブラ歩きまわりました。ガードレールまでいくと、すでに、ぬれてしまっているこしをのせました。

 あらわれた空気をとおして、みどりが目にしみ入ります。しんせんな香気こうきを、むねいっぱいにいこみます。いちめん、みどり包囲ほういされていました。杉木立すぎこだちが、すすきの群生ぐんせいみたいに山の斜面しゃめんをおおい、あちこちで、赤茶あかちゃけた露地ろじさらしていました。くるまのとおらない道路どうろに、ツツドリやウグイスの鳴声なきごえがひびきます。

「あーびっくりした」

 むねポケットさぐりながら、ぼう読みでいうと、電子でんしタバコをくわえました。

 すぐにとって、またはこにしまいました。

 水をったみどりが、かぐわしいムシゴロシの成分せいぶんはなっています。そぼふる雨でかみつめたくぬらしながら、彼はたたずんでいました。

 長い無人島むじんとうぐらしで、しずかなのにれているはずなのに、いっそう、しみるよう感じました。

「なに、やってんだか……」



 特殊とくしゅカンオンは、外部エネルギーが切れ、内部バッテリーから補助サブ自家発電じかはつでんに切りわるさい、再起動さいきどうをよぎなくされます。そのとき、ゆいいつの弱点じゃくてんをさらしてしまうのでした。

 特殊とくしゅ一般いっぱんを問わず、カンオンは電気でんきだけでも、数日間すうじつかんはうごいていられました。それだけでも十分じゅうぶん機能きのうしましたが、なるべくすみやかに、そのエネルギー環境かんきょうととのえることが、のぞましいとされていました。通常つうじょう特殊とくしゅカンオンのエネルギーは、海底かいていケーブによってまかなわれていました。

 しまおかとを特殊とくしゅカンオンでつなぐフォーマットを構築こうちくした組織そしきと、それを利用りようする顧客こきゃくがどれだけうるおっていても、さすがにそれだけで、独自どくじにエネルギーシステムを、島内とうない建設けんせつするのはムリがありました。また、なんであれ、エネルギーの供給きょうきゅうには、つねに安定性あんていせいがもとめられます。自然しぜん依存いそんする、不安定ふあんていなエコ・エネルギーシステムでは、とても万全ばんぜんとはいえませんでした。――ざんねんなことに、それらの必要性ひつようせいをもっとも声高こわだかにうったえる、意識いしきの高い人たちこそ、浮島うきしまのお得意とくいさまでしたが。

 エネルギーは、老朽化ろうきゅうかした海底かいていケーブルをつたって、おかから確保かくほされていました。そのたばの中には、通信用つうしんようケーブルもふくまれていました。それらを補修ほしゅう維持いじしたり、また、あらたにつくりなおすことは、小規模しょうきぼ国家予算こっかよさんレベルをようしました。

 補助電源ほじょでんげんしまのいたるところにあり、銀行ぎんこうちかくの大型おおがたパチンコ店の駐車場ちゅうしゃじょうにもありました。その設備せつびのおかれたパチンコは、島民とうみんらが立ちさるまえの、あの大震災だいしんさいいぜんから閉鎖へいさされ、年季ねんきの入った廃墟はいきょとなっていました。

 あちこちやぶれた黒いシートからかおをだす、ぺんぺん草。ちぎれた金網かなあみぎわにまれた古タイヤ。脱色ブリーチされても、今もかわらず高くそびえるカンバン。とうぜんガラスはられ、あせた外壁がいへき日焼ひやけした皮膚ひふのように、全面ぜんめんポロポロはがれていました。「ぱちんこパーラー・マンハッタン」の駐車場ちゅうしゃじょうに、じかにシートをかぶせ、角度かくどたがえたソーラーパネルが、びっしりとみ立てられていました。

 それは震災時しんさいじのパニックにつけこんだショック・ドクトリンによって、性急せいきゅう法整備ほうせいびされた産廃物さんぶつでした。わり高な電気買取価格でんきかいとりかかくのFIT(固定価格買い取り制度)など、さまざまな旨味うまみがからんだいわくつきで、ただでさえデフレで荒廃こうはいした田舎いなかに、雨後うごのタケノコのようてられたものでした。

 それも経年劣化れいねんれっかをまぬがれず、半分ちかく使えなくなって来ていました。フルーツのよくそだつ、このしま特有とくゆう月平均全天日射量つきへいきんぜんてんにっしゃりょうの多さと、潮風しおかぜがそれを、いちじるしく早めていました。



 ソルのカンオンは、異質いしつ電波でんぱをキャッチしました。それは急速きゅうそくに弱まると、プッツリ途絶とだえてしまいました。微弱化びじゃくかしすぎてカンオンの識域しきいきをこえたか、それじたい消えてしまったようでした。

 待機中たいきちゅうだったカンオンは、最小限さいしょうげん機能きのうをのこし、スリープ状態じょうたいでエネルギーを温存おんぞんしていました。カンオンは追跡ついせきをあきらめると、ふたたび、もとのふかねむりにおちました。



 道に勾配こうばいがかかりはじめました。ダイは山に入りました。

 補修ほしゅうされぬ道路どうろ端々はしばしには、崩落ほうらくした石と土がたまり、中にはひょろりと、灌木かんぼくの生えているところさえありました。

 うっすらヴェールのような白い土が、道路どうろぜんたいに、かかっていました。まだりはじめなので、グリップに神経しんけいをつかい、立ちっぱなしのリーンアウトで走っていました。わかい彼は、あつい季節きせつの雨を慈雨じうとして、ハデなピンクのツナギの中であせをかきながら、快調かいちょうにバイクを走らせていました。

 そんなこととは無関係むかんけいに、彼の指環ゆびわ電波でんぱをキャッチしました。長いモノのねむりからめたそれは、その能力のうりょく発動はつどうしはじめました。


 おおざっぱにいって、特殊とくしゅカンオン=無認識だっぽうカンオンとはオバケでした。みずから幽霊ゆうれいと化すため、特殊とくしゅカンオンは消滅しょうめつジャミングをおこないました。消滅しょうめつジャミングとは、便宜上べんぎじょうのたとえです。そのコトバじたいが矛盾むじゅんしており、電波でんぱですらない可能性かのうせいもありました。

 存在そんざいなき存在そんざいとしての、ステルス特性とくせいかなめをささえているのが、浮島うきしまでした。その効果こうかをうむ浮島うきしまシステムは、ごく一部で創造主そうぞうしゅ、ロードなどとあがめられている、ある天才てんさいによって生みだされたものでした(あくまで、そういうウワサです)。そのシステムは、いまだ解明かいめいされておらず、コピーするにもリミットがかかり、部分的ぶぶんてきにしかできませんでした。人がつくったとウワサされるものですが、今のところ人間がそれを模倣もほうしたり、代替物だいたいぶつをつくったりすることは、とうてい、かないませんでした。

 ほんらいジャミングとは、強力きょうりく電波発信でんぱはっしんによって、みかたの在処ありかをウヤムヤにし、てきの混乱こんらんじょうじるためのものです。しかし、それは諸刃もろはつるぎであり、発信者はっしんしゃ居場所いばしょをみずからさらす、リスクをともなうものでもありました。

 特殊とくしゅカンオンの消滅しょうめつジャミングは、発信者はっしんしゃと、その周辺部しゅうへんぶをなくしました。しかも、おなじ特性とくせいをもつ、特殊とくしゅカンオンどうしの双方向性そうほうこうせい維持いじされまたまま。

 戦争せんそうから恋愛れんあいまで、コミュニケーション時の有利性ゆうりせい確保かくほのさい、もっとも大事だいじなことは、あいてがわにじぶんが検閲けんえつされていることを、さとらせないことです。検閲権けんえつけんとは、認識にんしきにおける有利性ゆうりせい確保かくほに他なりません。それは寝ているか、起きているか、くらいちがいます。浮島うきしまシステムにおいては、じぶんたちにのみ、その覚醒権かくせいけんがあたえられるのでした。

 もしかしたら浮島うきしまシステムとは、忘却ぼうきゃくシステムのことなのかもしれません。あいてがわ痴呆ちほうにするこのアンフェアこそ、他にるいをみない特徴とくちょうだからです。つごうのわるい関係かんけいちつつ、じぶんにつごうのよい関係かんけいはたもつ。全体的個ぜんたいてきことしての一般いっぱんカンオン(そもそも一般カンオンというものはなく、カンオンはすべてカンオンなのです)とちがい、特殊とくしゅカンオンはとしての孤立性こりつせい武器ぶきとして、あの国民投票こくみんとうひょうによってきまったグレート・チェンジ[情報の独占禁止と自発(強制)的共有]後も、しぶとく、それをてずに持ちつづけていました。まるで、刀狩かたながり後の百庄ひゃくしょうのごとく。そのとき成立せいりつしたはずのレントゲンほうを、合法ごうほう非合法ひごうほうを合わせ、のらりくらり軟体生物なんたいせいぶつのよう回避かいひしてきたのでした。

 それを成立せいりつさせる独特どくとくのセルフシステム、みずからを関係かんけいとする者どうしの、関係間かんけいかん王者おうじゃこそ浮島うきしまでした。

 これに対し、ぞくにいうギュゲスの指環ゆびわは、無認識だっぽうカンオンに対抗たいこうしてつくられたものでした。その存在意義そんざいいぎ暴露ばくろにありました。脱法だっぽうシステムの特定とくてい通報つうほうが、指環ゆびわの生まれた使命しめいでした。

 それがおきるまで指環ゆびわはモノでした。ひとたび、ある特定域とくていいき電波でんぱパターンにふれるやいなや、彼は生命せいめいをやどしたようにはたらきはじめます。それへ過敏かびん反応はんのうするよう、ひっそりはたらいていた内部ないぶ自律じりつシステムが、引きがねを引きました。指環ゆびわ一般いっぱんカンオンのような汎用性はんようせいはありませんが、その目的もくてきのためだけに、特化とっかされていました。

 それが今、めざめたのです。

 彼は、その微弱びじゃく電波でんぱが消えるまえに、消滅しょうめつジャミングを無効化むこうかする、ジャミングをかけました。消滅しょうめつ×消滅しょうめつ=顕在化けんざいかです。どうじに無認識だっぽうカンオンに対してのみ、みずからの姿すがた一時的いちじてき陰性化ステルスかさせました。さらに、海底かいていケーブルは寸断すんだんされていたので、脱法だっぽうシステムに便乗びんじょうして、衛星回線えいせいかいせんをつかい通報つうほうしました。

 ここで、一つの疑問ぎもんにいきあたります。大まかな場所ばしょがわかっているのに、なぜ当局とうきょくが、しかるべき措置そちをとらないのか? と。

 仮定かていのはなしですが、まず、指環ゆびわ当局とうきょくの手によるものという、かくたる証拠しょうこはありません。じつは不正ふせいにもちだされたもの、またはそのコビーかもしれないからです。それらの可能性かのうせい無視むしすれば、考えられるのは、とりしまる方の後ろめたい心情しんじょうか、後ろぐらい事情じじょうのせいなのかもしれません。


[一般的いっぱんてきにいって、年収ねんしゅう一億いちおくダニーをこえると、税収ぜいしゅうはガクンとへります。脱税だつぜいをとりしまる行政ぎょうせいも、カンオンの統計調査とうけいちょうさをみまもる役人やくにんたちも、れいがいではありません。

 お役人やくにん、「みどり」をやたらと多用するところから、いわゆる「みどりの貴族」とよばれる人たちも、数字上すうじじょうそこまでとどかなくても、なんのかんのと、きめ細やかな手当て、各種控除等かくしゅこうじょとうがつき、じっしつそれは、賃金収入ちんぎんしゅうにゅうとおなじでした。

 とくに、たいした産業さんぎょうもない、年配者ジジババだらけの地方ローカルにおいては、彼らはカーストの上位にいました。はいガス規制きせいのきびしいドイッチョラントの、グレードの低い輸入車ゆにゅうしゃを、扶養家族ふようかぞくなどがりまわしていました。

 彼らに社会貢献しゃかいこうけんこうけん意識いしき希薄きはくでした。そんな見栄きがいはなく、おさないころからの勉強べんきょう小科挙しけん突破とっぱ自負じふし、とうぜんのご褒美ほうび=権利けんりとうけとっていました。――これはミクロなルサンチマン(ただの妬み)ですが、マクロなルサンチマン・プロパガンダ=スケープゴートとは別個べっこの、メゾな是々非々ぜぜひひでもあります。

 おどろくべきことに、また、ざんねんなことに、そのヘ・イゾー氏(クラランの御用経済学者)ばりの、うらなりの弱肉強食的じゃくにくきょうしょくてき自己責任論じこせきにんろんを、なぜか支持しじする、おおぜいの自由民(C層)がいました。そしてその上には、戦後せんご無責任むせきにんの度合いを年々ましてきた、お花畑サブカル強欲グリードを合わせもつ、雲上人うんじょうびと富裕層ふゆうそうである自立民(A層)がいるのでした。

 デフレから恩恵おんけいうける両者りょうしゃ。まずしさゆえの無知むち視野狭窄しやきょうさくか、どうるいの過当競争かとうきょうそうによる不適切ふてきせつ低価格ていかかくを、盲目もうもくてきに歓迎かんげいする自由民いそんみん。そのチキンレースとは無縁むえん安全あんぜんなゲートの中で、資産しさんの目べりをなくす政策おだいもくを、けがれなき無意識よくあつ画策かくさく支持しじする自立民じりつみん

 グローバルの中で分断ぶんだんされ、固定化こていかする身分みぶん不幸ふこう結婚けっこんをする、二つのルサンチマン。おやだいからの需要不足デフレのせいで、ひんすればどんするとは裏腹うらはらに、内面ないめんは、ますます、ささくれ立ちデリケートにむこころ。一方、その不当ふとうなゆたかさに対するやましさと、しつけのされなかった子度藻みたいに、ドリルで破壊はかいするような、ばっぽんてき改革かいかくを好む、じっとしていられないおさな欲動よくどう貧者ひんじゃ同族嫌悪どうぞくけんおからの半歩リードを、富者ふしゃ欲徳よくとく動機どうきとし、おぼっちゃまからの脱皮だっぴをはかります。彼らはおたがい、ヨ・ヘイ氏ばりの「自己批判できるぼく」を、骨太ほねぶと差異プライドとするのでした]



 とりしまる当局とうきょくも、上にいけばいくほど、とうの対象たいしょうから恩恵おんけいをえている人が多くなります。とうぜんのことながら、出世しゅっせにひびくことに、熱心ねっしんになる部下ぶかはいません。彼らはプロレスで、おちゃにごし合っていたのかもしれませんね。

 そこへ指環ゆびわ登場とうじょうしました。空気のよめない特化型アスぺは、好運シャンス(?) なアクシデントのたすけによって、彼の職務しょくむをまっとうしてしまったのです。ハブられるおそれなどない彼は、人の機微きび熟知じゅくちしたカンオンとはちがい、ようしゃなく通報つうほうしたのでした。


 通信つうしん潜入せんにゅう放置型ほうちがた探知機たんちき、コード:18211111-1030-18810209-0128、俗称ぞくしょうギュゲスの指環ゆびわ。わたしは被疑者ひぎしゃ個別化こべつか成功せいこうしました。



 その時チェロキーは、みさきでシガーをふかしていました。

ギャラリー
  • みなし児ヴィデオ・オレンジ 45 (みなし児への意志)
  • みなし児ヴィデオ・オレンジ 44 (空無)
  • みなし児ヴィデオ・オレンジ 43 (出口)
  • みなし児ヴィデオ・オレンジ 42 (暗闘)
  • みなし児ヴィデオ・オレンジ 41 (トンネルへ)
  • みなし児ヴィデオ・オレンジ 40 (前夜)
  • みなし児ヴィデオ・オレンジ 39 (船上会議)
  • みなし児ヴィデオ・オレンジ 38 (港にて)
  • みなし児ヴィデオ・オレンジ 37 (オンショア(海風))
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