スマホ640pix



      Anchorites(
世捨て人たち)



 ソルは、北サツマ通りのあの店、「ニューアンカー」(訂正のおわび。作者の都合により、名前をニューモアから変更しました)に、つれてこられていました。

 店内てんないには彼はとりかこみ、三人の大人がいました。銀行ぎんこうのおじさん、ジープのおじさん、それに、おじさんか女性おばさんか、よく分からない人。すくなくとも、このしまには、ソルをふくめ四人はいるようです。彼は、これいじょう人口じんこうえないことを、ねがいました。

 ピラピラしたドレスを着て、みみはなにピアスをつけた、こえはおじさん、なりは女性おばさんの人が、このみせ主人ママでした。ママがしゃべると、ベロにもピアスがあるのに気づきました。

 ジープのおじさんは、店明みせあかりの下では、ずいぶん、ちちんで見えました。こげちゃ本革ほんがわボアえりつきライダースジャケットに、レッドウィンクのエンジニアブーツ。やせギスで、その世代せだいの中でも、ややひくめの身長しんちょうでした。光沢こうたくのない黒すぎるあたまは、むかしのロッド・スチュアートだかロン・ウッドみたいに、襟足えりあしが長くテッペンが立っていました。野外活動やがいかつどう直射日光ちょくしゃにっこう潮風しおかぜによるものか、銀行ぎんこうのおじさんより、シワがおおく、ふかきざまれています。(第一次産業を身近に知らず、若作りが主流の)クラランの住人じゅうにんであるソルの目には、後期高齢者こうきこうれいしゃにしか見えませんでした。

「で、どーすんの?」

 ママが軽蔑けいべつしたような、へいたんな口調くちょうでいました。

「どーするも、こうするもないだろ。来ちまったもんは、しょうがない。とにかく早く、もどさなくっちゃ。できるだけ、お、ん、び、ん、にな」

 銀行ぎんこうのおじさんが、いいました。

「だからさぁ、どうやって、その穏便おんびんにもどすのって、聞いてんの」

「なに他人ひとごとみたいに言ってんだよ。そのために、こうやってあつまってんだろ」

 ちょっとイラつきまじりで、おじさんは言いました。

「ようするに、けっきょく二パターンしかないわけだ。こっちから行くか、むこうから来てもらうか。でも、なるべく連絡れんらくしたくないわけじゃん、おれら。なるべく、こそっと、おくとどけたいわけじゃん」

「で、そのための手段しゅだん問題もんだいなわけだろ。だからこうやってあつまって、知恵ちえしぼって、多数決たすうけつできめようとしているワケだ。だろ?」

 まどぎわの、ジープのおじさんにむかって――

「おい、おまえもだまってないで、なんとかいえよ。おれたち全員ぜんいん運命うんめいが、かかってるんだぞ。おまえのキャラは分かったから」

「聞いてんのか?」

「……」

「まーた、だんまりかよ」

「カランコロン、カラン……」

 ドアチャイムの音で、ビクッとなるソル。

「なんだよ、もうわってんじゃん」

 また一人ふえました。

 どんどん人がえていく……。

 彼は憂鬱ゆううつになってきました。

「オッサンたちがガンくびならべて、なんの臨時集会りんじしゅうかいだ? (笑)」

 こえからしてわかい感じの人が、ズカズカ入ってきました。

「ちがうわよ。この子のおくり方をはなし合ってんの」

「なんだ、子どもじゃん」

 あらっぽくイスを引いて、ドカッと、ソルのとなりにすわりました。

 ドキン! となるソル。もはや「ども」どころではありません。

「アレ、おまえ……」

「えーと、なんだっけ? んと、だれちゃん?」

 目をつむって、うつむき、指先ゆびさきを二本ひたいに当てました。

 パッと、あたまの上で電球でんきゅうがついたように、

「ホルスの友だち、ちゃんじゃん!」

 れやかな、好感度こうかんどの高めの笑顔えがおをみせました。青年は、ハリネズミのような茶色ちゃいろ短髪たんぱつで、片耳かたみみに一つだけ、シルバーリングのピアスをつけていました。

「ん? ちがった?」

 じつは、ソルの方が早く気づいていましたが、おどろくより先、彼は、みょうな感心かんしんをしていました。ダイのうちとけた様子ようすに、なるほどと、つかの間じぶんの立場たちばをわすれ、感じ入っていたのでした。なにが「なるほ」どなのか、じぶんにもよく分かりませんでしたが。

「いえ。あっ、はい」

 半テンポおくれるソル。

り合いか?」

 銀行ぎんこうのおじさん。

り合い、り合い」

 ニコニコがお好青年こうせいねんのダイ。

「えー、おり合い?」

 ママが口もとに手を当て、いいました。

「イエース」

 ダブルピースのダイ。

り合いだよな?」

 グッと、鼻先はなさきちかづけるダイ。

「えっハイ」

 およびごしに。

「アレ、おまえカンオンは?」

「そういえばいな。気づかなかった」

 おじさんにいわれ、気がどうてんするソル。

「ハハ、しらない間に、いなくなっちゃってぇ、ハハ……、ハ……」

 ジープのおじさんは、だまってまどの外を見ていました。



「――で、どうなのよ?」

 議論ぎろんが、つづいていました。おもにダイが提案ていあんをし、それを、ことごとく、おじさんが退しりぞけるというかたち。そこへママがって入りました。

「あのふねのことか?」

 あのふねとは、緊急脱出用きんきゅうだっしゅつよう小型こがたボートのことです。

「つかえんの?」 

 ほおづえついて聞く、まぶたの重たげなダイ。

「おい」

 おじさんは、ジープのおじさんを、ふりかえりました。

「……ああ」

燃料ねんりょうは?」

「……あるよ」

まんタンか?」

まんタンだ」

 ちょっと、うれしそうに。

「そうか、よし」

 銀行ぎんこうのおじさんは、せきばらいしてから、ゆっくりみんなを見わたしました。

ふねが小さいからといって心配しんぱいない。ここから本土ほんどまで、大した距離きょりじゃないからね。こんな子でも、ハリボテの小さなヨットで、ここまで来れたんだ。問題もんだい天気てんきだ。事前じぜんによくしらべて、出発しゅっぱつのタイミングさえ間違まちがわなければ、あらしがくる前にこうに着いちまうだろ」

「いやーだいじょうぶかな、アレ。ぜんぜん使ってないだろ」

 ダイが、ジ―プのおじさんにむかって言いました。

 ジープのおじさんは、かたをすくめ、りょう手をひろげて見せました。

「あれは最新式さいしんしきちかいものだよ。なにしろ、万が一にそなえての、おれたちの生命線せいめいせんだからな」

「そりゃそうだ」

 おじさんが、あいの手を入れました。

「そのために、みんなで金を出し合って、こっそり買ったものだからね。ただきっぱなしだし、ちゃんとうごいてくれるか、どうか。なにより本土ほんどまで、確実かくじつにたどり着けるかが問題もんだいだ」

整備せいびはしているさ。他にすることもいしな。カタログどおりなら間違まちがいなくいける。だが相手あいて自然しぜんだ。そう、こっちの思いどおりにはいかないさ。しょせんはシロウト仕事しごとだし、100%の保障ほしょうはできないよ。いざ本番ほんばんになったら、なにがあるかわからないからな。とつぜん、海のまん中で止まったって、文句もんくはいいっこなしだ」

 うって変わって、ジープのおじさんは能弁のうべんになりました。

 しばらくみんな、だまっていました。

「まあ……、そんときゃ、そんときだ。なんだって、結局けっきょくうんまかせだよ(笑)」

「ちょっ――」

 ママをせいし、おじさんは真顔まがおでたたみかけます。

「そもそも、おれたちが他人ひとのこと心配しんぱいしていられる身分みぶんか?」

「おれたちはボランティアか? 行政ぎょうせいでもおやでも、ましてや善人ぜんにんでもない。おい、わすれるなよ。どちらかといえば、おれたちは悪人あくにんの方なんだぜ? おれたちができる範囲内はんいないのことを、すればいんだ。かみさまだって、それでゆるしてくれるさ」

 ほほえんで、ことばをむすびました。

 しゃべらない他の大人たち。

「むこうが先に位置いちをキャッチしてくれればいいが……。もし、だれかに先に救助きゅうじょされてしまったら、海保かいほでなくても、色々いろいろやっかいなことになる」

「うまくいったとして、その後どうすんの?」

 ママがいいました。

「そんなことは、おれたちが考えなくてもいいんだよ。後のことは、やつらにまかしとけばいいんだ。なんとでも、うまくやるさ」

「まあ、べつにどっちにころんだって、さすがに頃されはしねーだろーし」

 と、ダイがつけ足しました。

海上かいじょうで引きわたすってのは?」

 きゅうにジープのおじさんが、クチバシをはさみました。

「ダメだね。カンオンが足どりをチェックしているし」

 そくざに却下きゃっかする、おじさん。

「こわしちゃえば、いいじゃない。カンオン」

「? ? ?」

 ふいなママの発言はつげんに、かおを見合わせる三人。

「できるかよ!」

 ダイが爆笑ばくしょうしていうと、おじさんも失笑しっしょうしました。

「アラ、なんで?」

「ダメなものは、ダメだ」

 きゅうに体温たいおんが下がったように言うおじさん。

「だから、なんでよ?」

「後で調しらべるんだよ」

 おじさんはメンドクサそうに言いました。

「どうやって?」

微弱びじゃく電波でんぱを出しつづけているから、後から発見はっけんできるんだよ」

 最新さいしん機械きかい情強じょうきょうな、男子だんしっぷりをみせるダイ。

全部壊ぜんぶこわせばいいじゃない」

「だからぁ、こわせないの。人の力じゃかく部分ぶぶんまでは、破壊はかいしきれないの」

 やれやれ、といったかんじのダイ。

「だったら、電波でんぱとどかないとこまでってくか、めちゃえば、いいじゃない」

「うるさいなー、とにかく、ダメなものはダメなの」

 だんだん、イラつくダイ。

「えー、意味いみわかんない」

「出た出た、おんな機械きかいオンチ」

「ずるぅ、そういうときだけおんなあつかい!」

機械きかいのこと、ぜんぜん分かってないんだから、だまってろよ」

 ダイは、ムリヤリわらせました。

 おじさんは真顔まがおでした。ジープのおじさんも、だまっていました。

「なによ、みんなでだまりこくって。アタシだけ、のけもの? ホーントおとこどうし、なかがいいこと!」

「ねぇーボウヤ、アタシたちは、なかよくしましょうねぇー」

「ハハ……」

 ひきつりわらいのソル。

 ママはカウンターのね上げ天板てんいたから、おくのヘヤへ入っていきました。のこされた四人は、だれもしゃべろうとはしません。

 しばし、時がながれました。

「ウオッホン。ゴホ、ゴホ」

ノドをならすと、おじさんは前のめりの体勢たいせいをとりました。

「おれがつれて行こうと思うんだが、異論いろんはないよな」

「……」

 だれも口をききません。

「じゃあ、そういうことで。あとはふね用意よういたのむよ」

 ジープのおじさんに目くばせして、そそくさと、おじさんは立ち上がりました。

「おい!」

 うつむいたままのダイが、よび止めました。

「なんだ、なにか問題もんだいでも?」

「しらばっくれ――」

 ダイが言おうとすると、ジープのおじさんが、わって入りました。

「なあ銀行屋ぎんこうや、おれたちは自由じゆうなんだよな?」 

「ちょっ、なにきゅうに言ってんの。また、いつもの病気びょうき?」

 はんわらいのダイ。

「おまえがそう思えば、そうさ。なんだって気分次第きぶんしだいだよ」

 目がすわったままの笑顔えがおで、ジ―プのおじさんにこたええる、おじさん。

「そうじゃない。リーガルな意味いみで言ってるんだ」

 冷静れいせいを、くずさないジープのおじさん。

「お役所やくしょみとめられなければ、自由じゆうじゃないのか? おまえらしくもない」

べんが立つな。こんなところで、前の職業しょくぎょうやくに立つのか? おまえこそ、もうフリーなんだぜ」

「ハハ、こいつは一本とられた」

「オッサンたち、いいかげんにしてくれないか?」

 こんどは、イラついたダイが、わって入りました。

「そういうの、後にしてくれる?」

教祖様きょうそさまがご立腹りっぷくだ」

 わるふざけの、おじさん。

「そういう大人ゴッコは、いいから」

 感情かんじょうをおさえ、ながそうとするダイ。

結局けっきょくここも、つつぬけなワケだろ?」

 だしぬけに言うジープのおじさん。

「アレ、知らなかったの? なに、今さら?」

 とぼけた口調くちょうの、おじさん。

「なに、サラリと言ってくれてんだ? 開き直りかよ?」

 おこった目つきのダイ。

「おいおい。おれもおまえらと、おなじ身の上なんだぜ。むこうの手先てさきみたいに言うなよ(笑)」

「つかいっぱのクセに」

「むこうから見たら、大してちがわないさ。なにかあったら、あっさり切りてられる、一蓮托生いちれんたくしょう運命共同体うんめいきょうどうたいだよ、おれたちは。みんな一緒いっしょなんだよ」

「よう、言うよ」

「その口のうまさで、いったい何人なんにんシャバでかしてきたんだか」

 ジープのおじさんがいうと、利口りこうな大人たちにうらみをもつダイが、おじさんを、にらみつけました。

「まあ、一番きらわれる立場たちばだわな」

 微笑びしょうするジープのおじさん。

「今日はやけに饒舌じょうぜつだな」

運命うんめいとやらが、かかっているからな」

 とつじょキッとなった、おじさんは、

「ここは監獄かんごくじゃないんだ。いやなら、シャバに帰ればいい」

 だんだん目が、すわってきました。

監禁かんきんならぬ、軟禁なんきんか? いやちがうな、ぎゃくだ。幽霊ゆうれい自由じゆうだもんな。おれたちは、自由のけいしょせられてるからな」

詩人しじんだね~。チェロキーは」

 うすらわらいをうかべる、銀行屋ぎんこうやのおじさん。ジープのおじさんの車種しゃしゅは、旧車きゅうしゃのラングラーですが、そのひびきの滑稽こっけいさと、自然派思考ナチュラリズム揶揄やゆを合わせ、あだ名で、そう言われていました。年下のダイは「フリーダムな人」といって、なかば、からかっていました。

「クソ! けっきょく、こうなるのかよ!」

 ダイがテーブルにケリを入れると、コップの水が半分はんぶんこぼれ、かろうじて止まりました。

 その景色けしき冷静れいせいにながめながら、すでに銀行屋ぎんこうやは、考えをまとていました。ゆっくり、しゃべりはじめます。

「まったく、どいつもこいつも自己欺瞞じこぎまんのカタマリだな。ほんとうは、っていたんだろ? じゃなければ、いったいどうやって、今までライフラインがたもたれて来たと思っているんだ? だれのおかげだ? おれたちみたいなのにまかせっぱなしにするなんて、そんなお人好ひとよしが、この世にいるか? なあ、おれたちってアヴェロンの野生児やせいじか? カスパー・ハウザーか? ん? あれは、世話せわされていたっけ? まぁいいや。とにかく、今までだれにも、なんにもたよらず、自立じりつして、自給自足じきゅうじそくで生きてこれたと思っているのか? しあわせだね~、脳内のうない花畑はなばたけかよ(笑)。 いったい、どういう連中れんちゅうが、おれたちみたいな半端者ハンパモンいゴロシにしていたと思ってるんだ? スキあらば他人を出しき、食いものにすることしか考えていないような連中けんちゅうだぞ? まあ、その張本人ちょうほんにんたち、最終利益者さいしゅうりえきしゃたちとは、おれたち、一生いっしょううことはないだろうがな。その下の、下の、下の、さらにその下の、ゲスな手下たちが、世話役せわやくやってんだぞ? そういうズルがしこいやつらの、ずぅーと、ずぅーと、下っぱの、下っぱが、おれたちなんだよ!」

 うっすら赤味あかみをおびた目、おじさんのいきは、かすかにクセのあるあまいニオイがしました。

「おい、小僧こぞうじゃねぇんだ。そんなぎゃくギレで、ひるんでゴマかされると思ったか?」

 チェロキーが水をさしました。

「おい、小僧こぞうじゃねぇんだ! そんなぎゃくギレで、ひるんでゴマかされると思ったか?」

「ふふん、食えないねぇ。ただのナチュラルばかだと思っていたら、いや、そう思わせていたのかな?」

 銀行屋ぎんこうや冷笑れいしょうすると、ダイにむきなおり、

「おい教祖きょうそ! おまえもねこかぶらなくったって、いいぞ。どうせみんな、おなじあなむじなだからな!」

「かー、つごうわるくなると、こうだよ。いやだねぇ、大人は」

「おまえだってってて、詐欺さぎ片棒かたぼうかついでたろうが!」

 完全かんぜんに目が血走ばしっている銀行屋ぎんこうや

「どいつもこいつも、世間せけんからてられただけの負け犬のクセしやがって、世捨よす人演びとえんじて、孤高ここう気どってんじゃねえよ!」


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