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マンガにはストーリー、共感、感動はありません。 小説には、それらしきもの(捏造への意志)があります。

みなし児ヴィデオ・オレンジ

みなし児ヴィデオ・オレンジ 45 (みなし児への意志)

スマホ640pix



      みなし児への意志



 病院びょういんから出ると、またもやソルは車上しゃじょうの人になっていました。 

 白っぽくて色のうすい綿めんのスーツ、あわい水色のシャツ、スジの入ったこいめのネイビーブルーのネクタイ。クルーカットばりの黒い短髪たんぱつにイカツイ体つきの、いかにも軍人ぐんじん上がりといった風体ふうていの男が、黒塗くろぬりのリムジン、ロールス・センチュリーで彼をむかえにきていました。

「こんにちはソルくん。わたしはカトーです。」

 おおがらな体をおり、あいさつしました。

「私はあなたのボディーガードけん、後見人こうけんにんです。あなたをまもり、お世話せわをするかかりです。」

 と簡潔かんけつに言いました。

 沈黙ちんもくをつくらぬよう注意ちゅういしていたソルですが、さすがに、この展開てんかいにはついていけませんでした。あっけにとられ、うながされるまま、むごんでくるまにのりこみました。

 要件ようけんを言いおわり、ソルの左がわにすわったカトーは、だまりこくってしまいました。まえの半自動運転席はんじどううんてんせきの人は、よく見えませんでした。

 しずかな車内しゃないに、HNK交響楽団こうきょうがくだんの午前のクラッシクコンサートがひびいていました。エアコンの温度おんどは、それと分らぬよう、のりこんだときから、じょじょに上がっきていました。

「ニュースです。ただ今入った情報じょうほうによりますと、クラランポートの岸壁がんぺきから、ワンボックスカーと乗用車じょうようしゃの、二台のくるま転落てんらくする事故じこがありました。」

「引き上げられた車内しゃないには、男性だんせい八名が乗車じょうしゃしており、車内しゃないに閉じこめられたまま全員ぜんいん溺死できししたもようです。水上警察すいじょうポリスでは、スピードの出しすぎにより、ハンドル操作そうさをあやまったものとみています。」

港湾局こうわんきょくのカメラには、埠頭ふとう蛇行運転だこううんてんをくりかえす二台のくるまうつっていました。」

 また、クラッシック演奏えんそうにもどりました。

 車内しゃないはしらけたような、おだやかな空気がながれていました。ソルはカトーと名のった左どなりの人物じんぶつが言ったことを、あたまの中で反芻はんそうしていました。しかしサッパリ理解りかいできず、そのうちねむくなってきました。つかれと微細びさい振動しんどう(クララン市の車は、すべて内燃機関のエンジンではありません。ロードノイズでもなく、安全確保のため完全遮蔽でない車外音と、エアコンのシロッコファンの音)で、うつらうつらしてきました。しずかな音楽おんがくがねむりへいざない、その高鳴たかなりとともに、ハッと目ざめる。そのくりかえしでした。

「――これから」

 だしぬけに、カトーが語りはじめました。

「きみはこれから、ちがう解放区(学校)にゆくことになる」

「?」

「名前も変わる。きみの名前はソルではなく、今日からは×××だ。とうぜん、生体識別情報せいたいしべつじょうほう同期どうきした、マイナンバーも変更へんこうされる」

「???」

「きみの安全あんぜんのためだ。今むかっているのは、きみのあたらしいまいだ」

「……」

「ご両親りょうしん了解りょうかいはえている。マネーのことは心配しんぽいしなくていい。生活せいかつ必要ひつようなものは、すべてこちらが用意よういする。きみのあたらしい名前名義なまえめいぎ銀行口座ぎんこうこうざに、毎月五日に支給しきゅうされる手はずだ。土日にかかるばあいは、くり上げられる。いじょうだ。なにか質問しつもんは?」

「……」

 挽豆ひきまめから抽出ちゅうしゅつしたコーヒーが出されました。密閉空間みっぺいくうかんにアロマのかおりが立ちこめます。

「わるいが、昼食ちゅうしょくをごちそうしているヒマがないんでね (笑)。むこうについてから、じぶんでとってくれ。これは当面とうめん生活費せいかつひだ」

 と、プリペイド情報じょうほうの入った、現物げんぶつカードをわたしました。

 ソルはそれをうけとると、コーヒーをすすりました。彼はコーヒーが苦手にがてで、紅茶こうちゃのほうがすきでしたが、天然砂糖シュガー本物の牛乳ミルクをたっぷり入れてのみました。

「……ブルックナーの交響曲こうこうきょく第9番ニ短調たんちょうでした。つづきまして、おひるのニュースです。」

 ニュースのあいまの音楽おんがくがとぎれると、ソルは病院びょういんからついたカンオンをなぶりたくなりましたが、とりあえずやめておきました。さっきから、くびの後ろのガーゼをあてがわれたところが、ムズムズチクチクいたがゆくってしかたありません。いたくなりそうなので、手でかかず、ぎゅっとシートにおさえつけました。

「プップップッポーン」

 正午しょうご時報じほうがなりました。

「おひるのニュースです。」

「今朝正午前、クララン市内の路上ろじょうで、30代から40代ぐらいと思われる、人間パーソン二名がたおれているのが発見はっけんされました。二人は病院びょういんにはこばれましたが、搬送中はんそうちゅう死亡しぼう確認かくにんされました。二人はたおれていた道路どうろの手前にあるホテルの屋上おくじょうから落下らっかしたものとみられています。」

「ホテル側の説明せつめいによりますと、二人はホテルのきゃくではなく、また屋上おくじょうのペントハウスのテラスのまどが、なにものかによってやぶられていたそうです。まどの外には3メートルのかこいがあるだけで、周囲しゅういには足がかりとなるものはなく、それをのりこえなければ、転落てんらく不可能ふかのうだとしています。」

警察発表ポリスはっぴようによれば、二人の体内から多量のアルコールが検出けんしゅつされており、二人は転落時てんらくじ、かなりの酩酊状態めいていじょうたいだったとしています。ただ、そうほうともに遺体いたいくびから背中せなかにかけての損傷そんしょうがはげしく、またカンオンレスの自己証明じこしょうめいのないまま、市内の高級こうきゅうホテルの屋上おくじょうまで入って来られたことなど、不審ふしんな点が多いことから、警察ポリスでは事件事故じけんじこ両面りょうめん捜査そうさをつづけているそうです。」

「つぎのニュースです。――」

 人通ひとどおりの多いスクランブル交差点こうさてんをこえると、くるま大通おおどりからわき道へ入りました。

 青々としたアキニレの葉のかべをいくと、カトーは街路樹がいろじゅのスキマをゆびさしました。

「ここだ。」

 ウィンカーがつくと、くるま減速げんそくしました。




 やく一か月後。


 この一月ほど、ソルは検査けんさやらなにやらですごしてきましたが、あとはきほんヒマでした(名前が変わっていましたが、べんぎ上、ソルのままでつづけます)。ときどきカトーが会いにきた日もありましたが、あとはずっとマンションに一人ぐらしでした。それだけは、彼を狂喜きょうきせました。なんだかこのためにだけ、今までの冒険ぼうけんがあったかのようでした。

 エリゼに行ったり、知人ちじんに会ったりすることは、禁止きんしされていました。カトーはソルの目を見て、なだめすかすよう、しんちょうに、それを言いましたが、彼はべつになにもこまりませんでした。前の生活圏せいかつけんにいくことも、ひかえるよう言われましたが、気にせず二三度、ホルスの家のちかくまで行ったことがありました。

 一度タクシーでとおりぎわ(やむをえず、前の生活圏をとおる場合は、なるべくタクシーを利用するよう言われていました)、ホルスによくた人を見かけました。金髪きんぱつでなりが派手はでだったので、他人の空似そらにだろうと思いました。

 彼はまったくヒマでした。ヒマでヒマでしょうがないのに、なにもする気がおきませんでした。ちょっと前まで、アレもコレも、ほしいものがいっぱいあったのに、いざお金が手にはいったら、すべてが色あせて見えました。お金のせいというより、「時間の質」が変わってしまったみたいでした。日がな一日カンオンをなぶっているだけ、そんな状態じょうたいで、とうとう三カ月いじょうすごしてしまいました。




 あき。新年度のファーストシーズン(一学期)。


 ソルはてっきり、アキニレのマンションちかくの解放区(学校)にかようものと、すっかりきめこんでいました。というのも、そのきんじょで一員(学生)らをよく見かけたからでした。そこらあたりは、さまざまな解放区かいほうくがあつまった一員街(学生街)でした。彼もときどきヒマつぶしに、ただしいいみで市民に無料解放(フリーオープン)されている、チンプンカンプンな共有(講義)に出たりしました。

 やく一年いじょうまたされてから、そことはだいぶはなれた解放区かいほうく転校てんこうしました。編入へんにゅうではなく転校てんこうです。つまり、年齢ねんれいどおりの共有年(学年)からのスタートでした。と、どうじ、ゆめ隠居いんきょぐらしは終了しゅうりょうしました。心底しんそこ、彼は落胆らくたんしました。



 ルーム(教室)にて。


 ソルはみんなの前に立って、あいさつするよういわれました。キャッチャー(教師)のミユキーは一見コンサバ風(保守的)にみえて、そうでもないような、文脈ぶんみゃくのわからない、なんだかよくわからない人でした。フリルつきの白いシャツと、無地むじっぽい藤色ふじいろの台形スカート。ちょうむすびの黒リボンの上に、青い瑪瑙めのうのカメオ、それにループタイをとおしていました。その浮彫うきぼりには、石膏像せっこうぞうのような、白い女性の胸像きょうぞうがかたどられていました。

 その性質せいしつは、一方通行いっぽうつうこうの正しい尺度じょうぎをもちい、杓子定規しゃくしじょうぎにふるまうのがすきな人のようでした。下方にゆくにつれウェーヴがかかるロングの黒髪くろかみをゆらし、時代おくれのレーザーポインターを手に、つぎつぎ一員いちいんらの顔面がんめんをまじかにさす。そんなサディスティックな一面を持ち合わせていました。

 名前だけいって、そそくさ空いているイスにむかい、ハン(班)のみんなにむかってアイサツしました。

 やれやれ。この行事ぎょうじがいちばん気が重かったので、彼はホッとひといき。ここまでは想定シミュレーション内です。

「――あ、ども」

 パートナーとなるむかいの女子に、うやうやしく慇懃いんぎん会釈えしゃくされ、ソルは、あせって言いました。エトゥコはちゅうとはんぱな長さの黒髪くろかみおかっぱ風ボブで、みょうに荘重典雅そうちょうてんがなふるまい、白すぎるはだと黒ずる睫毛まつげ、それにネイルをやっていたりと、チグハグでエキセントリックな印象いんしょうをうけました。後になって、他にもチラホラにた雰囲気ふんいきの子を見かけ、彼女だけでないのをりました。

 彼は内心ないしんこれらの女子たちを、清楚せいそオバケとよんでいました。ソルにとって、女子たちは一つの神秘しんぴでした。いったいどこから、そんなお金が出てくるのか? と、つねづね思うからでした。

 となりの他ハン(他班)の男の子が、元気よくはなしかけてきました。

「オレ、ハル。まえ、どこいたの?」

 と、ややグセぎみのかみでニコニコ。ソルも、ドギマギせいいっぱいの笑顔えがおで、こたえました。

「……うん、なんていうか、外国に」

「どこ?」

「×××××」

「どこ、そこ?」

 ボロの出ない、マイナーなくにへ行っていたことになっていました。過去かこをふしぜんに欠損けっそんすることなく、整合性せいごうせいをもたせ過去かこち切るため、いっぱんの人の検証けんしょうのむずかしいブランクをもうけたのでした。

 ソルは俯瞰ふかんで、この会話かいわ光景シーンを見ていました。あいての声も、じぶんの声も、フィルターがかかったように、くぐもって聞こえていました。

「――あ、ひこうきの」

 ふいにハルが、クツの小さなぎんピンをさしました。

「ははっ(笑)」

 ぶきように半笑はんわらいのソル。

「なんの機体きたい?」

「ええっと、スポーイ34」

「ふるっw」

 ややポリティカル・コレクトネスに踏込ふみこみぎみの、積極型せっきょくがた対人接触たいじんせっさしょくですが、奇異きいというほどでもなく、たんに今様いまふう趣味しゅみ細分化さいぶんかと、陽性ようせいキャラなだけでした。

――けっきょく、友だちにはなれないだろうな。

 と、このときは思っていました。それは屋上おくじょうからの達観たっかんでなく、地階ちかいからのあきらめでした。ものごとがおさまるところにおさまったという感じでした。

 彼とて、純粋じゅんすいな〇〇(任意に埋めて下さい)なんてないことぐらい、しっていました。ただ「仮面の告白」のガラではないということです。より自然しぜん欲求よっきゅうからくる連携れんけい演技えんぎにしたがい、生きられる時間(ウジェーヌ・ミンコフスキー)を共有きょうゆうするもの。それが多数派マジョリティでした。少なくとも、そのハンドルのあそびの内に、彼はいませんでした。その動機どうき持続性じぞくせいのための原理げんり希薄きはくだったのです。ネアンデルタール人のごとき、彼の個性こせい……。

 体験たいけん輪郭ちがいを、よりハッキリさせました。みずからの限界げんかいをみとめること。人格じんかくとは限界げんかいだということ。これこそ成長せいちょうであり自己実現じこじつげんでした。あとは怒人のバンジージャンプ(通過儀礼)となんら変わりません。

 もとからですが、ふれあい・なれあいの社交性しゃこうせいや、現在進行形げんざいしんこうけいの中での思い出づくり、といった人生とよばれるものに興味コンプレックスをうしなった彼は、設計せっけいにとりつかれはじめました。どう生きるかより、いかに時間を処理しょりするかに。どこまでいってもうしないつくせぬ世間体せけんてい生存せいぞんのため、存命中ぞんめいちゅう余白よはくをぬりつぶす作業さぎょうにとりかかりました。

 カンオンでひろったロールモデルの、換骨奪胎かんこつだったいのオリジナル化をとおし、手さぐりしはじめました。ソルでないものとして、彼らしく生きてゆくために、だれにもジャマされず一人で生きてゆくために。ほんとうのいみでの、わがままな道への一歩目いっぽめでした。




「ぴろろろろ~ん」

 れんらくが入りました。ハルからです。

 ここのところ、ソルはラジコンの飛翔体ひこうきづくりに熱中ねっちゅうしていました。赤と白のツートンカラーがうつくしい、ハッセガーワの「RF35ドランケン」デーンマルク・スペシャルでした。

 なんとか約束やくそくの日までつくり終えた彼は、それを大事だいじそうにかかえ、せんようのバッグにおさめました。じつは昨晩さくばん完成かんせいし、いったんバッグに入れたものを、ながめるために出しておいていたのでした。

 リモネンセメント(接着剤)のオレンジのかおりがはなをくすぐり、くしゃみをしました。目的地もくてきちにむかう間もくしゃみがとまらず、土手の太いみきの木のようすで、やっとその症状きせつに気づきました。ソルは白いじゅうたんをみにじりながら、早歩きでとおりすぎました。




 あとがき。


 この状況下じょうきょうかからの脱出だっしゅつのお話があるとすれば、それはまた、べつのきかいに。あさくひろくライトそうをとりこんだ、デフレスパイラルな続編ぞくへんではなく、まったくあたらしい物語ものがたりとして。

 といっても、ものがたりをかたろうがかたるまいが、だまりこくったっておなじこと。どうころんでも、われわれは死ぬまで自己正当化じこせいとうかという贋金にせがねづくりから、おりられっこないからです。生きているかぎり完全かんぜん絶望ぜつぼうがない、という絶望ぜつぼうの中では。


(他サイトでも投稿しています。)

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みなし児ヴィデオ・オレンジ 44 (空無)

スマホ640pix



      空無



 ある物語の持つ真理の度合いは、その物語が悪物をどんな風に評価しているかによって測られるべきである。悪物に卓越した地位を与えていればいるほど、その物語は、実在のものに心を配り、欺瞞と嘘を峻拒する真摯な物語と知れようし、たわごとや慰めごとを並べたてるよりも、事象を確認するほうを採る物語だとあかされもするのだ。


      ――「生誕の災厄」EM・シオラン(紀伊国屋書店)より 宗教を物語へ、悪魔を悪物へ改竄



「デモクラシーは新しい事柄ではない。古い事だ。人民が古くなりかける度ごとに現れてくるものだ。」


      ――「眞畫の惡魔」P・ブールジェ 岩波文庫




 病院びょういん待合室まちあいしつにて。


 ソルは長イスに、こしかけていました。つま先でスリッパをブラブラさせ、固定こていカンオンがうつしだすテレビを、ボンヤリながめていました。ニュースショウの音声おんせいが、人気のない待合室まちあいしつによくとおりました。

 固定こていカンオンは、クララン市内の500メートル四方に、かく一機いっきづつおかれていました。いじわるな固定資産税こていしさんぜいのせいで更地さらちにできない空き家のように、使いみちのなくなった固定こていカンオンですが、カンオンをもたないマイノリティのために、とくに公共性こうきょうせいの高いばしょにおかれていました。また、災害さいがいなどの緊急時きんきゅうじのライフラインとして、国内省こくないしょう基準きじゅんにもとづき、設置せっち義務ぎむづけられていました。

 バタンと、ときおりドアが閉まる音がきこえると、コツコツ、ゆかをたたく規則的きそくてきな音がして、どこかへとおざかっていきました。病院びょういんのなかは閑散かんさんとしていました。さいしょに、ここにいるよう言われてから、ずうっと、だれも見かけませんでした。なんだか、お休みの日の共有ルーム(教室)みたいでした。

 ぶきみのたにをとうにこえ、カンオン上で人気の少女型しょうじょがたキャスタロイドが、ニュースをつたえていました。しゃべるたびにデフォルトのみどりのロングヘアがなびき、その衣装いしょう髪型かみがた、目の色と虹彩こうさいの中の光玉ひかりだま照明しょうめい書割かききわり背景はいけいにいたるまで、クルクル目まぐるしく変わりました。

 画面がめんの下には、こまごまとした詳細しょうさい情報じょうほうリンクがはられ、せわしく入れかわっていました。モデルアイコンの着用ちゃくようしているふくのアパレルメーカーと値段ねだん。そのヘアスタイルそっくりにできる(注1)、もよりの美容びようチェーンの所在地しょざいち値段ねだん。アクセブランドとその値段ねだん。はては架空かくうモデルの私物品しぶつひんにいたるまで。どんなに時間がすぎても、おいもの情報じょうほうだけは、およそ1月~3ヵ月後ぐらいまで(注2) さかのぼることができました。

 (注1) 人によります。 (注2) 商品によります。

「ゴーストバンクの名簿めいぼ公表こうひょうにより、また一人の著名人ちょめいじん失脚しっさきゃくしました」

 濃紺のうこんのスーツにかがやくシャツの白いえり伝説でんせつ黒髪くろかみ華麗かれいみださずまとめ上げ、キラリと光る、シルバー・アンダーリムの細メガネ。バックのいかにもなニュースショウの書割かきわりは、ライトブルーの歯車はぐる幾何学模様きかがくもようでした。そこへメテオみたいな流星いんせきの雨がふり、つづけざまコメットも発動はつどう、コロニー落としのような光で画面がめんが下からみちました。

 くるりんぱっ(上島竜兵風)。

 こんどはキャラクターだけではなく、ステージごと変わりました。

 すなぼこりまう風の中、コロコロころげるタンブル・ウィード。拳銃無宿けんじゅうむしゅく西部劇風せいぶげきふうセットから、紫煙しえん濛々もうもうと立ちこめ、アルコールランプのほのおあやしくゆれる、阿片窟あへんくつ魔都上海まとしゃんはいへ。拍車はくしゃのついたブーツと、つば広テンガロンハットのカウガールから、おだんごヘアに切れこんだスリットドレスの、レッツ・ダンスなチャイナガールへさまがわりしました。

 これらの映像えいぞうは、それぞれカンオンつかいの偏向クセがアルゴリズムによって反映はんえい風味ふうみづけされたものでした。つぎつぎくり出される変化へんかは、「消費者の購買意欲を賦活する刺激となる」という建前たてまえでしたが、変化によるプチ祝祭しゅくさい日常にちじょう浸潤しんじゅんしあい、うならなりの対の実みたくなっていました。

 それは個々ここのつくり手にとっては、おやくそくの業務ぎょうむであり、大手メディアにとっては、バレてもなんのモンダイにもならない、大衆たいしゅうに対する「我が闘争」をふくむものでした。また、その人の願望がんぼうをあてがうことで、こっそりクレームそらしもかねていました。

 もっともこの病院びょういんのそれは、不特定多数ふとくていたすうになぶられた、なれのてでしたが。

「本日〇月×日づけをもって、クララン市長トヨコAI・エンプティ・ツキジは、辞職願じしょくねがい市議会議長しぎかいぎちょう提出ていしゅつしました。先の市長、チューイチ・カイゴ・マッシブ氏の公金横領こうきんおうりょうによる辞任じにんをうけ、当選とうせんしたばかりでした」


――クララン市長トヨコAI・エンプティ・ツキジ。

 彼女の政治的業績せいじてきぎょうせきは、おもに三つありました。前元号時代ぜんげんごうじだいにおける、個室こしつスパの名称めいしょう否定ひてい変更へんこう。クラランオリンピアのユニホームの否定ひてい変更へんこう。つうじょうの手つづきをふんだ、市場移転計画しじょういてんけいかく否定ひてい変更へんこうなどでした。

 市場移転計画しじょういてんけいかくは、もともとアプレゲール・ニヒル・イシハラ氏いぜんからの継続的事業けいぞくてきじぎょうであり、科学的かがくてきになんら問題もんだいのないものでした。マスラビッシュ(マスゴミ)によって、「なぞの地下空洞ちかくうどう」とよばれた地下モニタリング空間は、たんに「もり土」をするより衛生的えいせいてきかつ、耐震性たいしんせいにおいてすぐれたシステムでした。

 地下ピットによる地下水管理ちかすいかんりシステムは、杭基礎くいきそをつたって地下から汚染水おせんすいがしみだす毛細管現象もうさいかんげんしょうがおきても、地下室でいったんそれを遮断しゃだんし、たまった水をポンプでくみ上げ浄化じょうかしたうえで、下水道から排出はいしゅつするものでした。こちらの方が、上から「もり土」だけでおさえるのとくらべ、より安全あんぜんなのはあきらかでした。また微量びりょうのヒ素が検出けんしゅつされましたが、環境基準かんきょうきじゅんを下まわるもので、それは移転地いてんちにかぎったものではなく、他の土地でも自然由来しぜんゆらいでありえるものでした。そもそも、魚をあらうのは水道水です。

 また耐震性たいしんせいにおいても、脆弱ぜいじゃくな「もり土」にくいをうつだけのものより、箱構造はここうぞうの下にくいをうつ方が、より耐震性たいしんせいがますのはとうぜんでした。

 これらは地盤工学じばんこうがくでは、技術的ぎじゅつてき一般的いっぱんてきなはなしのようです。マス・ラビッシュ(マスゴミ)が、それらを公平こうへいにつたえることはなく、つねに彼らがつくった物語を「ほのめかす」のでした。

 よくフェイクニュースと言われますが、じっさいは事実じじつ捏造ねつぞうより、言質げんちをうばわれない倫理的価値りんりてきかち捏造ねつぞうの方が多く、とくに老いた「先進国。いい匂いのする腐敗物、香料入りの屍体。(シオラン改竄)」において横行おうこうしていました。

 専門家会議せんもんかかいぎなどの指摘してきをうけ、彼女はそれらの合理性ごうりせいをみとめながらも、「安全だが安心ではない」と不合理ふごうりなナンクセをつけました。

 彼女は行政ぎょうせい首長リーダーにして反体制はんたいせい反逆児ジャンヌダルクであり、おバカ保守ほしゅとリベラル・マスコミの愛児アイドルであり、負組まけぐみ意識高いしきたかけい女神ディーバでもありました。

 はなしは二転三転にてんさんてん笑点しょうてんはいつの間にかお金のもんだい、利権問題りけんもんだいへとすり変わり、いちばん重要じゅうようだったはずの市民の健康被害けんこうひがいのはなしは、ザブトンはこびの山田君とともに、どこかへいってしまいました。――負けそうになるとルール変更へんこう、さいごは倫理りんりでゴネルのが、こころ弱き者の特徴とくちょうです。

 彼女は卑小ひしょうあくではなく空無くうむであり、「われわれ自身のなかの独裁者(マックス・ピカート)」のようでした。アプレゲール・ニヒル・イシハラ氏とちがい、彼女は議会ぎかいをとおさず、トップダウンで移転延期いてんえんきをきめてしまいました。その判断はんだんによって生じた税金ぜいきんのムダ使いは、げんだんかいで、およそ100おくダニーをこえています。もはや、引きずり下ろし大好きな庶民びんぼうにん反感はんかん失脚しっきゃくした、前任者ぜんにんしゃのチューイチ・カイゴ・マッシブ氏のセコイつかいこみとは、ケタがちがうものになっていました。


 ようやっとばれたソルは、看護師かんごしさんにつれられ出ていきました。だれもいなくなった待合室まちあいしつで、ニュースショウはつぎのトピックにうつりました。画面がめんが暗くなってスリープするしょうエネ設定せっていも、だれかに解除かいじょされていました。

「今朝6時37分ごろ、スソ・ガウラー・アイランドで火災かさいがおきました。オフショアの舞台ぶたいとなった、このしまきゅうサツマ通りのパチンコ店、『ぱちんこパーラー・マンハッタン』の駐車場ちゅうしゃしゃじょうから火の手が上がりました。」

「火のいきおいははげしく、オフショアの舞台ぶたいとなった地方銀行ちほうぎんこうにもまわり、ゴーストタウンとなっていたきゅうサツマ通り一体を、ものの数十分で火の海にしました。」

「ただちにしま管轄かんかつである、クララン消防庁ファイヤー・デパートメント航空隊こうくうたい消防ファイヤーヘリコプターと、警察予備隊アースガードのヘリコプターが出動しゅつどうしました。」

消防庁ファイヤー・デパートメントによりますと、現地げんち到着とうちゃくするも、すでに消火活動しょうかかつどうをする必要ひつようをみとめられず、ほぼ自然鎮火しぜんちんかした後ということでした。」

原因げんいんは、電気でんきのないこのしまでの自家発電じかはつでん、ソーラーシステムの老朽化ろうきゅうかによる不具合ふぐあいと見られていますが、警視庁ポリス・デパートメント事件事故じけんじこ両面りょうめんから調査ちょうさをつづけていいるとのことです。」

「なおこのしまは、みなさんご存知ぞんじのように無人島むじんとうですが、季節きせつにより定期的ていきてきに一週間ほど、市に業務委託ぎょうむいたくされた民間みんかん保安管理調査員ほあんかんりちょうさいんが入ります。しかし今はその時期じきではなく、無人島化むじんとうかしているため、この火災かさいによる被災者ひさいしゃはいませんでした。」

「つぎのニュースです。――」




 その日の夜 コモンの自宅じたくにて。


 コモンはストレスで気がヘンになりそうでした。副理事ふくりじのジョーシマが、一員関係者(生徒の親など)の緊急会議きんきゅうかいぎの後すぐくなってからというもの、ひとり対応たいおうにおわれていました。

 コモン、キャッチャー(教師)のシュザンヌ、副理事ふくりじのジョーシマ、すべて派遣はけんもしくは契約けいやくであり、理事りじさえ代理人だいりにんでした。わからなかったエリゼのほんとうの主体者しゅたいしゃ最終責任さいしゅうせきにんうものが、れいの脱税事件だつぜいじけんによって表へ出てきました。フタを開けてみれば、だれも聞いたことのないような夫婦ふうふが、理事りじ学長がくちょうでした。

 ソルの失踪しっそう不祥事ふしょうじつづきでしたが、エリゼの子らの親たちも、少なからずオフショアのけんからんでいました。声音こわね低く糾弾きゅうだんするマスコミも同罪どうざいで、クララン市のアッパークラスぜんたい、グズグズになっていました。ただ匿名とくめいのエリゼ裏通信ウラつうしんだけは、たいへんにぎわっていました。

 ここにその一例いちれいをとりだして、みなさんにお見せしたいのですが、カギがかかっているのと、あまり共有(教育)によろしくないので、ひかえさせていただきます。もしみなさんが大人になっても関心かんしんがあり、まだアーカイブにのこっていたら、下記のリンクを参照さんしょう(注) してみてくださいね。 (注)そのときは、自己責任じこせきにんでおねがいします。

 なぜかキャッチャー(教師)のシュザンヌが、こころのやまいでたおれてから、彼がかわりに、彼女の共有(授業)をうけもつハメになってしまいました。ただそれだれが、彼の疲労ひろう原因げんいんではありませんでしたが。

 どこの解放区(学校)にもありますが、なにげに彼もその職業上しょくぎょうじょうのたちばから、一員(生徒)らの裏通信ウラつうしんをしりました。彼もいくつかのアカウントをもっていましたが、このところチェックアプリのよびだしがひっきりなしで、とうとう、彼はそれを排除アンインストしてしまいました。

 日に日に、彼にかんする書きこみがふえ、気になってしかたありません。見てもなにもいいことはない、とわかっていても、やっぱり今日も開けて見てしまうのでした。


「コモン、ウゼー」

「おまえ、なに一人でイキッてんだよ。タヒね!」

「あいつキモ、今日も女子のことイヤらしい目で見てた」

「大人の女に相手にされないから、エリゼにきたヘンタイ黒メガネザル」

「てか、あいつの目つきおかしくね? なんか明日屁っぽい」

「クサイんだよ、おまえ」

「ちっちぇーんだよ、おまえ」

「あそこも、ちっちゃいですw」

「ただの厨二ちゅうにだろ」

「高度共有(大学)にのこれなかった、ちゅうとはんぱな共有歴コンプ(学歴コンプレックス)じゃね?」

「でた、共有歴厨きょうゆうれきちゅう!」

「おなじ解放区内(学校内)でなにいってんだ? おまえの親、底辺(自由民)か?」

「はい、ミラーイメージ!」

 とかなんとか、バリゾーゴンの雨あられ。まいにちせっしない親たちの方は、子らとはちがった、またべつのあじわいがありました。大人ならではのメディアリテラシーやインテリジェンスを生かし、親兄弟おやきょうだいから親類縁者しんるいえんじゃ年収ねんしゅう、共有歴(学歴)、病歴びょうれき女性遍歴じょせいへんれきにいたるまで、ネホリハホリあることないこと、エゲツナサなく書きこまれていました。

 アニメのキャラみたいに、メガネが目のコモン。ピカピカッと、そのレンズが光りました。おでこのタテせんをしずくマークの汗玉あせだまがつたい、ピクピク赤十字の血管線けっかんせんが、こめかみにうき出ています。エモティコン(感情記号)のカタマリと化したコモン。弱冠じゃっかん40さいにしていまだ独身どくしん

 どんより黒ずんだむらさき背景バックに、ムクムクわきあがる、火属性ひぞくせい氷属性こおりぞくせいのケダモノのオーラ。火炎ファイヤガきちらし、暴風雪ブリザードあらしをまきおこす。

 こよいもテトラパックのコンビニ枝豆えだまめと他人の悪意あくいつまみに、発泡酒はっぽうしゅ合成ごうせいワインのちゃんぽんが、すすむ、すすむ。

 今まさに、彼のひたいに亀裂きれつが入り、第三の目、邪眼じゃがんが開かれんとしています。陰キャ(目立たない人)の超覚醒ちょうかくせいがはじまろうとしていました。




 あけて、エリゼにて。


「えー、みなさんに、だいじなおらせがあります」

 コモンはシュザンヌ空間(シュザンヌの受け持つ教室)のまん中に立って、はなしはじめました。

「きのう、おはなししたように、ソルは無事ぶじでしたが、とつぜんですが、彼はお引っこしすることになりました」

 しんと、しずまりかえったルーム(教室)。さざなみひとつ立ちません。コモンはちょっとだけ、ぶきみに感じました。

「それってどういうことですか、わたしたちは、どうなるんですか?」

 ジュリがたずねました。

「はい。あなたたちのハン(班)は、マリもお休みしているので、ニコライと二人だけのハン(班)になります。もちろん、きみのパートナーもニコライです」

 というと、ジュリはロコツにヤなかおをしました。ニコライは表面上ひょうめんじょう無反応むはんのう窓外そうがい風景ふうけいをながめていました。

「まだルームぜんたいを再編成さいへんせいできる時期じきではないので、もうしばらく、このままでおねがいします。共有(学習)のテーマも、二人ではタイヘンでしょうが、そのままつづけてください」

「えぇー、ガックリ。」

 ジュリは、かたを落とすポーズをとりました。そのうでをつかんで、ブンブンふってなぐさめる、となりの女子。

 うっすら目の赤いコモンは、なかばヤケになっているので、会話かいわメソッドもつかわず、自前じまえではなしていました。

 それに気づいた一員(生徒)は、さっそく口パクとウラ通信うらつうしんで、倫理的揚足りんりてきあげあしとりをはじめました。

「マジかよ、コモンのやつ。ありえなくない? アイツ今、オレらと直ではなしているんだけどw」

「オワッタな」

「はい、つーほー。おまわりさん、この人ですwww」

理事不在りじふざいだから、なんでもありだなコイツ、ペッ(唾棄)」

「だれか、エリゼと業務提携ぎょうむていけいしているスポンサーしらない?」

「なんで、おまえがやらねーの? 匿名通信とくめいつうしんの中でしか、なにもできないコドクちゅうが! すまい館(エリゼの居住区)のてめえのベッドでねてろ、カス!

「てめーこそ一生ロムってろ ハゲ!!」

「ふるっ」

匿名通信とくめいつうしんつかって、匿名通信とくめいつうしんの中でしかなにもいえない (ry」

「またかみのハナシしてる」

「コモンと結婚けっこんしたい、メスです。」

「てか、なんか、さけクサくない?」

「オレも思った」

「コモンと離婚りこんしたい、メスです。」

「アルちゅうかよ、やっすwwwwww」

「いよいよオワタな、メガネザル」

「コモンと再婚さいこんしたい、メスです。」

「コモンの人気に嫉妬しっと

「コモン大人気だなw」

 口をパクパク、目くばせしている子らが、コモンにはウェーイノ・シノパズー池端いけはたにあつまる、こいのむれに見えていました。


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みなし児ヴィデオ・オレンジ 43 (出口)

スマホ640pix



      出口



 ソルは気づかず管制室コントロールルームをすぎていました。とうの管制室コントロールルームにいた、ブルもラムも気づきませんでした。くるま騒音そうおん遮断しゃだんされるので、あたりまえといえば、あたりまえでした。

 ロボットのいどうは前のターンにくらべ、チェックが簡略化かんりゃくかされ、はやくなっていました。手ぬきというより、学習がくしゅうといった感じでしょうか。

「ヒュンッ」

 とすぎてから、右壁みぎかべのぼんやりとした黒字が、あたまの中で2kmと読めました。

 天井てんじょう案内標識あんないひょうしきがせまると、ロボットの強い照明しょうめいで、緑地みどりじに白い矢印やじるしが三つ分かれていました。出口はちかいようです。

 とうとう、のこり1kmをすぎました。

 おもわず口もとがゆるみ、すぐに気を引きしめました。出口になにがまっているか、わからないからです。

 大きなカーブに入るやいなや、彼はとびりました。

 気もちを落ちつかせながら、指のすき間からカンオンの明かりをもらし、光量こうりょうチェックをしました。小石をけったり、すなでこすれたりしないよう、足を垂直すいちょくに上げ下げする要領ようりょうで歩きます。かべづたいに、しんちょうに、歩をすすめていきました。

 光が見えてきました。

 ゴールの勝利しょうり光明こうみょうです。

 そこから歩幅ほはばをせばめたせいで、なかなか光にちかよれません。ユラユラゆらめく小さな光の中を、チラチラよぎる黒いかげ。たぶんそれは空気のゆらめき、さっかくにすぎないと、彼にもわかっていました。しかしなんにせよ、まようにはまだ早すぎます。とにかくそれへ一歩でもちかづく他、今はありませんでした。

 もういくらなんでも、クラランには入っているはず。地下はしらないが、地上ではおそらくそうだろうと、こころの中で思いなしました。とたんに彼はカンオンの便利べんりさを思いだしました。

「おまえ、出口のとこわかるか?」

 反応はんのうがありません。

「出口、人いないか、わかるか?」

「出口、人いないか、わかるか?」

 少しイラだって、たずねました。

 緑色みどりいろの光がみゃくのように明滅めいめつしています。とてもおだやかな光で、ホタルのようでした。

「よし、テイサツにいけ。見つかるなよ」

 前方をゆびさしました。

 呼吸こきゅう心電しんでん心音しんおんなどの生体情報せいたいじょうほうに、わずかなコトバと個人情報こじんじょうほう蓄積ちくせきなどでをくんだカンオンは、天井いんじょうスレスレを弾丸だんがんのようにとんでいきました。

 でも、まちぶせしていたら? あいてもカンオンを持っていとしたら?

 なおさら意味いみがありません。いったいどこまでちかづけば、オンラインが復活ふっかつするのか、今のところまだカンオンはローカルなままでした。

 今ソルは「桑崎浮揚くわさきふようジャンクションSA(サービスエリア)出口」ふきんまで来ていました。ここであせっても、なにもよいことはありませんが、彼はいたって冷静れいせいでした。海底かいてい暗闇くらやみはこわいけれど、少しでも危険きけん兆候ちょうこうがあったら、いつだって引きかえしてやろうと思っていました。なんだか早く着きすぎな感じがしたし、なにより、彼がまちのぞむものも、彼をまつものも、なかったからでした。

 カンオンがもどり、さっそく映像照射えいぞうしょうしゃをはじめました。出口から少しはなれたところに、二台のくるまが止められていました。シルバーメタリックのワンボックスカー、アレファードと白のセダン、ヘルシオ。むこうから見て入口には、人がウロウロしていました。

 上下グレイのスウェットに身をつつみ、白いマスク、黄色いゴムイボつき軍手ぐんてをした、八人の男たち。それぞれの手には、ロープ、ブルーシート、警棒けいぼう、テーザーじゅう(針が飛び出すスタンガンの一種)など。

 うでを組んで談笑だんしょうするもの、絵にかいたように準備運動じゅんびうんどうするもの。一部、個別認証こべつにんしょうのいらない格安かくやすカンオン(機能限定)をなぶるものもいましたが、それいがい、カンオンは見た目なし……。

 をぬかれたみていに血圧けつあつの下がるソル。

「いや、子ドモですけど……」

 うすらわらいにもならず、ピクピク、ほほが引きつっただけでした。さんざん、やりちらかしてきましたが、もうつごうのよいマイノリティ特権とっけんは、通用つうようしそうにありません。

 ローカル情報じょうほうによると、このあたりの道路どうろ閉鎖へいさされていて、いっさいのエネルギーがたたれた、いわゆるオフグリッドでした。おそらく生きたカメラやセンサー、カンオンなどはなさそうでした。

 トンネル内はまだ暗く、出口は暗闇くらやみのベールをはり穿うがったようでした。光点は間夏の昼を凝縮ぎょうしゅくし、太陽たいようのツブのごとく、白くかがややいていました。まだ正午まえでしたが、真昼の悪魔あくまがささやきます。もうすぐ、そこだよと。

 ロゴスそのもののような、始原しげんの光を目のまえにして、彼はぐらつきました。引きかえすのが、おしくなってきたのです。おかしなことに、具体的恐怖ぐたいてききょうふ想像的恐怖そうぞうてききょうふ喚起かんきし、海底かいていにもどれなくなってしまったのです。彼はいたばさみになってしまいました。

「……」

 ぼそぼそ、なにか声にならぬ声で、つぶやいています。

 足ぶみどうぜんで、できるがり、ぜったい見つかないであろうていどまでちかづき、立ち止まりました。

 そうじロボットが彼より先、出口につきました。光がゆれ、あざのようなモヤモヤが消えると、出口はくっきり、きれいなカタチになりました。もう一度ソルは、カンオンをとばします。かえってくるまでの間、また、じりじり小刻こきざ作戦さくせん開始かいししました。

 もどってきたカンオンには、彼らのリラックスしたすがたがうつしだされていました。それぞれの車内しゃないで草のタバコをふかすもの。コンビニのコーヒーをのみ、ヘリウッド映画えいがの雨ポリさながら、おやつのドーナツをかじるもの。フブカや実話じつわナッコーズを読むもの。ゲームに課金かきんするもの。中には、早すぎて食べそびれた朝食ちょうしょくを、コンビニ弁当べんとうでガッツリ食べるものもいたり、また下っぱでつねに睡眠不足すいみんぶそくのせいか、仮眠かみんはとりはじめるものさえいました。

 車外しゃがいにはだれもいません。893といえど、さすがはクラランの現代けんだいっ子。機械きかいに対する信頼しんらい絶大ぜつだいというより絶対ぜったいで、あきらかに休憩きゅうけいでした。

「よし。」

 つばをのみこみいきを頃しながら、彼は早歩きで出口にむかいます。コホコホッむせかえりながら、せかせか競歩きょうほみたいに。

 陽光ようこうの下、世界せかいみどりがかっていました。つばをのんだ気圧きあつの変化で、こまくがぬけたような騒音そうおん復活ふっかつと、むねをすく新鮮しんせんな空気。

 映像えいぞうで見た二台のくるまは、出口から50メートルほどはなれ、マドには透過率とうかりつの低い、違反いはんスモークフィルムがはられていました。それらをかみしても、彼のすがたを完全かんぜんに消してくれるとは思えません。こちらから車内しゃないは見えませんが、むこうからはまる見えのはず。

「チッ、どうするよ」

 緑色みどりいろ悪魔あくまが、ソルをたきつけます。彼は退却たいきゃく選択肢せんたくし抑圧よくあつしたあげく、もっともチンプで、B級映画きゅうえいがじみたアイディアを採用さいようしました。

 とおくからサイレンの音がひびいてくると、トンネルへとみちびく、へこんだ道の両壁りょうかべに、クルクル赤い光がよぎりはじめました。

 パワーウインドウにスキマが空き、エンジンがかかりました。ギヤがバックに入っても、ピーピーと音はなりません(もちろんクラランでは違法行為です)。ここらへんは閉鎖へいさされた道なので、さいていでも通行禁止違反つうこうきんしいはんになります。一般道いっぱんどうまで、あわててくるま移動いどうさせはじめました。さすがは商売柄しょうばいがらの、クイックレスポンスです。

 二台のくるまがカーブをまがって視界しかいから消えると、ソルはもうダッシュ。分岐ぶんきするもう一方の道へ入り、低くなったかべをよじのぼって、へだたった反対がわの道へとび下りました。ころんで回転かいてんしながらおき上がって、また走り出します。

 なるべくたくさん道を横切り、来た道とつながらない道へ出ようとしていました。メチャクチャに走りまわり、心臓しんぞう破裂はれつしそう。生まれてはじめて、ポンプのレッドゾーンまで酷使こくししました。

 もっと細い道へ、死角しかくになりそうな建物たてものかげへ、身をひそめられるところまで、とにかく彼は走りつづけます。とりあえず、今見えている高架こうかが小さくなるまで、走りつづけようとめていました。




 高い金属板きんぞくばん衝立ついたての空き地。

 道に面したところにだけそれがあり、三方はガラ空きでした。ボンネットのないくるまとドアのないくるまとの間で、ソルはねころんでいました。青々と高くしげったイネのネズミムギが、マットレスのかわりでした。

 細長い青空に、くもが二三コうかんでいました。もうあと少しすれば、太陽たいよう天井てんじょうからかおをだし、とてもじゃないがあつくって、こんなところでていられなくなるでしょう。

 あせがとめどもなくき出し、グショグショです。ほとんどお風呂ふろに入っているよう。シャシーと地面のせまいスキマから、生ぬるい微風びふうがつたわり、したたるあせ衣類いるいをつめたく感じました。

 かおを横にむけると、ジャッキとブロックにのった、タイヤのない赤茶あかちゃのハブごしに、うごくかげが見えました。黒とこげこげの、甲斐犬かいけんみたいなブチネコが、こちらをのぞきこんでいました。

「シャー」

 と、威嚇いかくしています。

 背後はいごにストラップ人形にんぎょうみたいな、貧弱ひんじゃくな小ネコがいました。

「うっせーな。あっちいけよ……」

「シャー」

「おれの方が先に――」

 ハッとなって身をおこしました。

 キョロキョロして、カンオンをさがします。

 あいつ、またどこかに……。

 呼吸こきゅうはととのっていたのに、砂利じゃりをふむ足音に気づきませんでした。気づいたときには、大きなかげが青空をふさいでいました。

「ソルくんね」

 と言われ、ふりかえりながらき上がると、大人が二人立っていました。




 ソルは、ほんもののパトカーにの中にいました。彼ののっているパトカーの前後にも、べつのパトカーがはりついていました。後部座席こうぶざせきのまん中で、女男の警察官ポリス・オフィサーにはさまれていました。女性の方がわかく、男の方は年配ねんぱいでした。

 トンネルを出るとどうじ、ソルの生体情報せいたいじょうほう識別しきべつコードの照合しょえごうにより、行政民間ぎょうせいみんかんを問わず各機関かくきかんに、彼の保護ほご指示しじされました。

 またか……。

 しつこいくらい、じぶんの名前なまえ身分ペルソナを言わされていました。確認かくにんだからとねんをおされ、なんかいも、なんかいも。彼は不満ふのんをおくびにも出さぬよう、注意ちゅういしていました。

 おねえさんはチェック項目こうもくを、上からじゅんにめていきました。他者に見えないプライベート照射しょうしゃでなく、あけっぴろげに質問事項しつもんじこううつしだされていました。これは透明性確保とうめいせいかくほのきまりでした。

 質問しつもんがカンオンにふれると、ソルは反射的はんしゃてきにさえぎるよう言いました。

「――カンオンは?」

 ニコッと口角こうかくを上げたおねえさんのは、高価こうかなナチュラルしあげの、白すぎない白でした。

「あなたのカンオンは、だいじなようがあって、あなたとおなじように保護ほごされているの。かわりのは、すぐ来るはずだから」

 上下、こんのスーツはほそくあわい金のライン入り、スカートはピタッと短めでした。かみはダークブラウンのミデイァムで、ストレートっぽいゆるやかなカール。ソルは警察関係ポリスかんけいなのに、うっすら香水こうすいのニオイ(グッシのゴージャスなフローラルの香り)がするのが不思議ふしぎでした。

 車内しゃないには警察通信ポリスラインがながれ、はっきりとした声のやりとりが聞こえました。

「――クララン本部から、サン・ニコル埠頭ふとうPS管内かんない。ただ今、同港どうみなとにおいて、不審ふしん無人むじん小型こがたクルーザーが、オートパイロットで到着とうちゃく。×××××は現場げんじょうにむかって下さい。――×××××了解りょうかい

「くわしいことは、病院びょういんについてからはなすから」

病院びょういん!」

 いまわしい記憶きおくがよみがえります。ニコライ騒動そうどうのときの、あの一連いちれんのできごとが。

「あー、びっくりした(笑) きゅうに大声ですから、おどろいちゃった。なに、どうしたの? 病院びょういんキライなの? 病院びょういんといっても、カンタンな健康けんこうチェックだけよ」

 と、ほほえみました。

 彼の右どなりにすわっている、白髪しらがまじりのおじいさん(ソルの目からみて)は、ずっとだまっていました。グレイのシャークスキンのスーツに、一見、無地むじのブラックタイ。彼のちょうど前にいる、半自動運転席はんじどううんてんせきの人と、のりこむ時に二言三言しゃべっただけでした。

 おじいさんは、おねえさんの方をチラッと見ました。

「ちょっとこれは、だいじなことなんだけど――」

 トーンが変わりました。ソルも無表情むひょうじょうのまま、身がまえます。

「君のその手にしている指環ゆびわ、みせてくれるかな?」

 べつにやましいことはありませんが、かたくなって、カクカク左手をもち上げました。

「ふ~ん。コレだれにもらったの?」

「……」

 おねえさんは、おじいさんを見ました。おじいさんは、だまって見かえしました。

「……」

「その指環ゆびわって、よく見るとおもしろいね。黒っぽくて、ふしぎな光沢こうたくしてない? これって、どうしたの? さいきんもらったの?」

「……」

 彼女はコミュニケーション・マニュアルを見ていませんでした。キャリアのエリートだから、あたまにばっちり入っているのでしょうか。それともそれじたい、子のこころをつかむための、規定きてい方法ほうほうでしょうか。

「今じゃなくても、いいから。あとで話してくれる?」

「……」

 ソルはなやんでいました。なにを、どこまで、しゃべっていいのか。じぶんにとって、島の人たちにとって、不利ふりなことはなんなのか。考えるとっかかりさえ、見当けんとうがつきません。くるまのながれはスムーズなのに、遅々ちちとした時間がつづいていました。

 いったいなにをしゃべれば、だれを売ることになり、オレは裏切者うらぎりものになるのか? そもそもオレは、やつらにどれだけのおんがあるというのか……。

――いうほどか? 

 イヤ、いうほど世話せわになったか?

 すくなくともいのちとか、社会的立場そんざいとか、引きかえるほどのさ?

 ポリスあいてに、おおげさすぎじゃねぇの?

 まあ、だれもきずつきゃしないって。たいしたことないって。さっさと、お子さまのたちば利用りようして、ゲロッちまえよ(笑)。

――おい! 後で後悔こうかいしてもしらんぜ。ずっと引きずるぜ。

 それともなにか? 良心りょうしん呵責かしゃくとやらで言えないのか、責任回避せきにんかいひ保身ほしんで言わないのか? はぁ~、プライドぉ? (笑)

 けっきょくのとこ、どっちが大事だてじなんだ? 内と外、未来と今、後悔こうかい矜持きょうじ、どっちの方が比重ひじゅうがでかいんだ?

(じっさいはそれらはランダムで相前後し、入り混じりあっていましたが……)

 とかさ、わざとコトバあそびして、時間かせぎしてるだろ? 袋小路ふくろこうじにこもって、やりすごそうとしてるだろ? 

 見え見えなんだよなぁ(笑)。もう、バレバレ。 

――ていう、これも逃避とうひっていう逃避とうひ……

 ぬかるみに、スタックしてしまいました。ひさしぶりの彼らしい沈黙ちんもくです。



「――これほしいの?」

 とつぜん言い出すソル。

「?!」

 となる、おねえさんと、おじいさん。

「ほしけりゃ、あげるよ」

 サイズのあっていない、ゆるい指環ゆびわをはずすと、手のひらにのっけし出しました。

「ハイ。」

 おねえさんは面食めんくらってアタフタしながら、いそいで持参じさんした黒い小箱こばこをとりだしました。指環ゆびわがピッタリ入るあなにはめこむと、パコンとフタを閉じ、またカバンをガサゴソやって、あわただしくしまいました。

 すかさず、おじいさんが前席ぜんせき合図あいずすると、

「ただいま、回収かいしゅうしました」

 ボソッと、前の人がひとり言のように言いました。

 どうせカンオンがモニターしているので、報告ほうこくにはおよびませんが、ブルの言いぶんをりるなら、手つづきでした。懐古厨(老害)のための安心あんしんと、関係当事者かんけいとうじしゃ身分保障みぶんほしょうのための。

 くるまはマイカーのしめ出されたまち中心部ちゅうしんぶを、スイートな権力けんりょくとともに、スイスイはかどりました。あっという間に、くだんの病院びょういんについてしまいました。

みなし児ヴィデオ・オレンジ 42 (暗闘)

スマホ640pix



      暗闘



「あーもう、ちくしょう!」

「こんなことなら、とっくに、引きかえしときゃよかった!」

 ソルはヘンに根気こんきのあるじぶんに、ハラを立てていました。おくびょうなクセにっからでもなく、どっちつかずで、ここまで来てしまった、ちゅうとはんぱなじぶんに。

 なんだか細部さいぶにコダワリすぎたときみたいに、あたま散漫さんまんでまとまりがなく、時間の前後もアヤフヤになってきていました。7kmをすぎたあたりの不確ふたしかな記憶きおくは、たしかにありました。でも、もしこの先7kmの表字ひょうじをまた目にしたとしても、悲嘆ひたんにくれつつ、なんなく彼はうけ入れてしまうことでしょう。

 立ち止まって仕切しきりなおしたい、となんども思い、けっきょくズルズル、ここまでやって来てしまいました。恐怖心きょうふしん投影とうえいした「なにか」においつかれそうでしたし、なにより足を止めたときの、しずけさの耳鳴みみなりがこわかったからでした。

 さっき止まったとき――もう、だいぶ前に感じます――聞いたあの音。こちらにむかってやって来るような、こだまする孔内こうない反響はんきょう。それはもしかしたら、気圧きあつ変化へんかによる、ただのみみなりだったのかもしれません。でも、つなみ圧迫あっぱくするようなそれは、今にもうすっぺらい被膜ひまくのようかべ破裂はれつさせ、天井てんじょう崩落ほうらくさせる、ぶきみな水音にも聞こえました。頭上ずじょう膨大ぼうだいな水のりょうと、わが身の小ささとに、彼のこころを深海しんかいの空きカンのように、きゅうっと萎縮いしゅくしました。

 クラランの音害おんがいに、どっぷりとつかってごしてきた彼ですが、「キーン」という無音むおん耳鳴みみなりは、ホルスの家や、風のえた島で経験けいけんずみでした。ここでのそれは「ごおぉぉぉ」といった感じで、さっかくなのか耳なりなのか、はんぜんとしません。海水のかさ莫大ばくだいはかりがたく、わきだす恐怖心きょうふしんはとめどもなく、おまけにこの暗闇くらゆみです。けれどもここへきて、彼の心象イメージれていました。オートマティックな今までことなり、なぐさめとなる対象たいしょうは出てこず、ひねっても、ひねっても、蛇口じゃぐちからはなにも出てきませんでした。漆黒しっこく真空しんくうめ合わすことのできないそのつらさは、まるで潤滑油グリースのきれた歯車はぐるまみたいで、彼のこころは、なめるようけずられ摩耗まもうしてゆくのでした。

 またしても、さっかく! 

 ソルはじぶんの感覚かんかく信頼しんらいできず、気づくのにおくれてしまいした。反響はんきょうにムラか、ノイズが生じているような気配けはいがします。

 呼吸こきゅうを止め、耳をそばだてました。

 目をこらすと、ポッツリのぞきあなのような点が見え、反射的はんしゃてきにライトを消しました。

 さいどライトを点け、カンオンをわしづかみ、左へとび上がりました。

 壁棚かべだなにとびのって、あおむけとなりライトを消しました。

 カンオンをかさねた手で、しっかりつかみ、外にもれるほど「ドッキンドッキン」となる心臓しんぞうをおさえるため、つばをみ下しました。

「コホッ、コホッ」と、せきこんでしまいました。小さくしようと、またさらにむねをしめつけました。

 もだえくるしむうち、もみあげのもとから、あせがポタポタしたたり落ちました。

「シャー」

 という機械音きかいおんがして、彼はハッと、われにかえりました。

 はらばいにがえり、おそるおそるあたまをもたげました。

 音はすれど、なかなか、ちかづいてきません。

 どうやら、それほどの速度そくどは出ていないようです。

 エリゼを深夜しんやにぬけ出したとき見かけた、線路補修用せんろほしゅうようの、ロボット車両しゃりょうを思いだしました。それは低速ていそくである区間くかんをいどうし、とまったり、うごいたりをくりかえしていました。だれもいない真夜中まよなか線路せんろを、レールや照明しょうめいをとりかえたり、金属疲労きんぞくひろうをみつけるために超音波探傷検査ちょうおんぱたんしょうけんさしたり、一人もくもくと補修点検ほしゅうてんけんをおこなっていました。

 じっさいそれは、お掃除用そうじようロボットでした。清掃せいそう簡易補修かんいほしゅう安全点検あんぜんてんけんもかね、無人むじんのトンネル内を、時間ごとにパトロールしていました。それが時速じそく30~40kmほどで、こちらにやってきています。天井てんじょうかべにはりつくことなく、ただひたすら、まっすぐ下道をとおってやってきていました。

 立ち止まりました。

 横壁よこかべにちかづいて上下をらし、なにか、さがしているようにも見えます。またセンターラインにもどり走りだしました。

 と思ったら、またきゅうブレーキ。立ち止まりました。どうやら一定間隔いっていかんかくごとの、壁龕へきがんのようなかべのくぼみをチェックしているようです。やきもきして、彼はまたされました。


 こともなく、ロボットは横をすぎてしまいました。

 かくじつに光が見えなくなるまで、彼はしんぼうづよくまちます。

 えんえんと、かなりたされた気がしましたが、線香花火せんこうはなびのような光点こうてんは、二三分後には消え落ちていました。

「……なんだよ。あせらせやがって」

 足をそろえてしずかに着地ちゃくちすると、うすぐらいカンオンのあかりをたよりに、ソルは歩き出しました。



 トンネル管理室かんりしつ

 ブル・アガべとラム・モラゼズは、コントロールしつ占拠せんきょしていました。女子と男のコンビで、二人ともグレイスーツでした。カンオンはついていません。二人の帰属きぞくする組織そしきは、仕事中しごとちゅうきまってお仕着しきせのように、ねずみ色のふく着用ちゃくようさせることから、その業界ぎょうかいではグレイの組織そしきとよばれていました。

 それはある国民的こくみんてきアニメ「見た目は小人、頭脳は大人」からの、もじりでした。今やサブカルチャーは世代間せだいかんをつらぬき、ジェネレーションギャップはただ、どのシリーズ、どのシーズンかだけでした。いわゆる現役時代げんえきじだい(お子さま時代)のすりこみというやつです。

 生き生きステイション(老人ホーム)の図書館としょかんには、イミテーション・ペーパーでできた、大き目A4サイズの大判漫画おおばんまんがまんがが、たなの大半をしめていました。ひらくとかび上がるシニア世代せだいむけ3D広告こうこく、ロッカーがた永代供養墓地えいたいくようぼちや、ペットともにやすらかにねむれるマンションがた墓地ぼち生前遺書代行せいぜんいしょだいこうサービスなどにより、おやすく提供ていきょうされていました。

「おっせーな。まだかよ」

「……」

「なに、グズグズしてんだよ。まったく、ガキ一人にかり出されて、こっちはいいメーワクだ」

「だいたい、なんでオレなんだ? 他にヒマなヤツ、いくらでもいたクセによ」

「……」

 らんぼうなコトバづかいの方が女子のラム・モラゼスで、かもくな方が男のブル・アガべです。

「あ~あ、日曜日にちようびだってーのに、こんなオッサンと組まされて」

 そういう彼女も、ゆうに30代後半をこえていました。二人とも革手袋かわてぶくろをして、ラムは黒髪くろかみのおかっぱに透明とうめいなゴーグル、ブルはダンディな中折なかおぼうをかぶっていました。

 ブルはデスクばんにブリーフケースをおき、デスクばんのモニターと、開いたブリーフケースのモニターの、りょう方どうじ、にらめっこしていました。

「おい、聞いているのか?」

「……」

 彼が持参じさんしたのは、浮島うきしま劣化版れっかばんコピーでした。とうぜん機能きのうはかぎられ、貧弱ひんじゃくなものでしたが、このコントロールしつ制圧せいあつして、使用痕跡しようこんせきを消すくらいのことはできました。

「おかしいな。計算けいさんだと、とっくに遭遇エンカウントしていても、おかしくないんだが……。もういいかげん、出口についちまうぞ」

「え、なんだって?」

「……」

「まーた、だんまりかよ」

 頭蓋骨ずがいこつ音楽おんがくを聞いていたラムは、ポケットからメルシーのヨーグルトあじをとりだし、つつみをポイすてしました。あまみが長もちするアメは、彼女なりのダイエット方でした。

 二人の脊髄せきずいには、プラグのような組織独自そしきとくじのカンオンがまれていました。施術しじゅつ組織そしきに入ったときにおこなわれ、そのいたみは、組織そしきへの忠誠ちゅうせいちかわせる儀式イニシエーションとして、またその後の苦痛くつうは、裏切防止うらぎりぼうし実益じつえきをかねるものでした。

 さっき出ていったラムがもどってきました。手に午睡ごすい紅茶こうちゃロイヤルミルクティー・ゼロをもっていました。

「チッ、よせといったろうに。証拠しょうこがのこる」

 ラムは無視むしして、グビリとやりました。

「……」

 彼女の態度たいどの大きさは、性別せいべつによるマイノリティ特権とっけんと、若頭補佐わかがしらほさむすめというコネからくるものでした。

「出口だ。もういちど引きかえす」

「なんだよ、いなかったんだろ? もう、いいだろ。どうせ引きかえしたって、おなじことだろが。それでいなかったら、どうすんだ。また、やりなおすのか?」

「そうだ。最低さいてい三回はやりなおす」

「はぁ~あ? ジョーダンじゃねぇぜ、やってられっか! あんなヲカマ野郎やろうの言うことなんか、しんじっからこうなんだ!」

 けっとばして、イスをころげさせました。

 ブルはふところから電子でんしタバコをとりだし、スイッチを入れくゆらせました。ジョンソン・リバーオリジナルの、ナッツのような、あまいタバコ風味ふうみがただよいました。

「おい、おまえはいいのかよ」

「フー」

 とふき、

「ここのじゃない」

 と言いました。

残存ざんぞんした微粒子びりゅうしは?」

「さて、しょうがない。長丁場ながちょうばになりそうだな」

「おい!」

 ブルは、イスにふかくすわりなおしました。

「おい!」

 モニターを見つめるブル。

「……」

 ふっと、冷静れいせいになったラムはお手上げのポーズをとり、せせらわらうように言いました。

「――いや、機械きかい信用しんようしようぜ。おっさん」

 わかい世代せだいほど、カンオン=機械きかいに対する信頼感しんらいかん絶大ぜつだいでした。それもムリからぬことで、科学かがくてきにその確率的正かくりつてきただしさは、すでに証明しょうめいずみでした。今まさにこの瞬間しゅんかんにも、その選択能力せんたくのうりょく合理性ごうりせいが、カンオンとそれを見まもる人間の監視者つきそいにんによって、再検証さいけんしょうされつづけている、まっさいちゅうなのですから。すくなくとも、そう聞かされていました。

社会しゃかいのルールってやつをらないのか? 手続てつづきってもんがあるだろうが」

社会しゃかいって (失笑)。おれらカタギじゃねーじゃん。アンタバカなの市ぬの? (嗤)」

「この業界ぎょうかいにはなんの保証ほしょうもないんだ。それに、お前の保険ほけんでもあるんだぞ?」

 じつは、今やどの組織そしきせきをおくにしても、それは半分だけでした。それとともに、かくじの保険加入ほけんかにゅう強制的義務きょうせいてきぎむでした。なぜならその気になれば、アウト・オブ・ロウでもうったえをおこすのは可能かのうでしたし、弱者保護マイノリほご精神せいしんにより、組織そしきがわが負けることもザラだったからです。判例はんれいとして、うしなったゆびに対する入院費にゅういんひや、慰謝料いしゃりょう支払しはら命令めいれいも下されていました。

「ろーがい(棒)」

 ヘイタンよみするラム。

「こんな世界せかいに、ルールもへったくれもあるか。バカじゃねーの」

「こんな世界せかいだからこそだ。仕事しごとには卑小ひしょうさが必要ひつようなんだよ。ま、女には分からんだろうがな」

「クソジジィが!」

 いかりをかくす必要ひつようも感じないラム。

「あーいーよ。オレだけかえる。後はヨロシクな」

「だめだ。連帯責任れんたいせきにんになる。お前こそ、いつの時代じだいの人だ? だいじなのは事実ファクトじゃなく、手続てつづきをのこすことだって言ったろうが。それともなにか、帰って若頭補佐パパにでも言いつけるか?」

「テメェ、もっぺん言ってみろ!」

 かんげつけると、しぶきがとびちって、ゆかに水たまりができました。あまったるいニオイがあたりにただよいます。

 カタカタと、むごんで作業さぎょうをつづけるブル。

「もっかい――」

「出口に着いた。引きかえすぞ」

 ブルはボタンを五回すばやくし、電子でんしタバコを消しました。



 ソルは8kmの地点ちてんをすぎていました。もうかなり、まいっていました。とくに神経しんけいがクタクタでした。

「もー、かえろうか」

「もー、かえつても、いいよね?」

「あー、もう!」

 わざと声を反響はんきょうさせていました。そうでもしていないと、またあの音に、とらわれてしまうからでした。

 ふたたび、あの異音いおんが聞こえてきました。

「引きかえしてきやがった!」

 壁棚かべだなにひとっとび。ピッタリおなかをつけ、いきを頃します。

「シュ―ン」

 という音が高なってきました。さっきより早めです。

 見るまに、彼の横で止まりました。

 ドキンとなるソル。

 アキラに出てくる炭団型たどんがたロボットを、ひらべったくしたみたいなかたち。ルンバに足が生えたようなのが、ちょうど彼の下のくぼみに、光をむけています。

 うごくか、うごかないか、彼は選択せんたくをせまられました。

 光が上がってきました。

 クソッ! よりによって、こんなところで!

 かおをふせ、じっとしたままのソル。

 光はフトモモをなめ、天井てんじょうにあがり、またフトモモをらし下りていきました。

 ロボットはむきをかえ、センターラインにもどり、走り去りました。

 ???????

 ワケがわからず、混乱こんらんします。

 バレたか? れんらくしにいくのか? いや、そんな必要ひつようはないはずだが……。

 にわかにひらめくソル。

 ヒザをつかって着地ちゃくちすると、彼はもうダッシュをかけ、ロボットにおいつき、そのままジャンプ。ロボットの甲羅こうらにのっかりました。

 気づかず走りつづけるお掃除用そうじようロボット。スピードを上げてゆきます。

 彼はじぶんでもビックリ。機械きかい鈍感どんかんさと、みずからの無鉄砲むてっぽうさにおどろいていました。

 いいぞ、筋斗雲きんとうんみたいだ。

 ノーテンキにも彼が思ったのは、とうぜんアーカイブアニメのDBの方でした。

 つかれがピークにたっしていたのか、どうせバレてんだとヤケになったのか、いきなりムチャなことをしてしまいました。でも、彼にも勝算しょうさんがなかったワケでもありません。なぜなら、ロボットが一度目にきたとき、見つからなかったからです。体をかくしたくらいで、センサーに引っかからないなんあるワケない。視覚しかくセンサーだけなんておかしいと、お子さまだって気づく御時世ごじせいでした。

 理由りゆうはわからないけど、とりあえず気づかれては、いないみたいw

 見られさえしなければ、ヘーキヘーキ、ぜんぜん、よゆうよゆう……なのかなぁ?

 ん、でもアレか、これってもしかして、犯人はんにんのジンケン、ジンメーへの配慮はいりょってやつ?

 このあたりのコトバの教育きょういくならぬ、共有きょうゆうは、それこそ徹底てっていしていました。プライマリー解放区(義務教育)に参加(入学)すると、まず、いちばんはじめに共有する(叩き込まれる)ことがらでした。

 かんぐってみますが、いくら考えたって、わかりはしません。

 まあいいや。

 バレてんだったら、だったら、だっただ。

 ソルは開きなおりました。というか、開きなおってばっかりですが (苦笑い)。

 細かいことはどーでもいいんだよ。そんなこたぁ、むこうに着いてからのはなし。

 後はノとなれナントカなれだ。


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      トンネルへ



 そこには、われわれを隔てる無限の混沌がある。この無限の距離の果てで賭が行なわれ、表が出るか裏が出るのだ。君はどちらに賭けるのだ。理性によっては、君はどちら側にもできない。理性によっては、二つのうちの どちらを退けることもできない。

 したがって、一つの選択をした人たちをまちがっているといって責めてはいけない。なぜなら君は、そのことについて何も知らないからなのだ。――いや、その選択を責めはしないが、選択をしたということを責めるだろう。なぜなら、表を選ぶ者も、誤りの程度は同じとしても、両者とも誤っていることに変わりはない。正しいのは賭けないことなのだ。

――そうか。だが賭けなければならないのだ。それは任意的なものではない。君はもう船に乗り込んでしまっているのだ。では君はどちらを取るかね。さあ考えてみよう。選ばなければならないのだから、どちらのほうが君にとって利益が少ないかを考えてみよう。


      ――「パンセ」 第三章 賭の必要性について 233 パスカル(前田陽一/由木康訳 中央公論新社中公クラシックス)



「よし、行くぞ」

 と、チェロキーはいいました。

「まって!」

 ママがソルに歩みよります。

「これを」

 強引ごういんにソルの手をとり、ギュゲスの指環ゆびわをそのゆびにはめみました。

 ビクッ、となって、されるがままのソル。

「ん、なんでママが?」

 ちょと、おどろいて、たずねるチェロキー。

「きのうね、ダイくんにムリ言ってもらったのよ」

 ダイの方を見て、

「ね、いいわよね?」

 ふり向くと、ダイはうなずきました。

「ゴメンね。あたしだって普通ふつうにくらしたいのよ」

 小さい声でいうママ。 

「なに言ってんの?」

 ダイが聞きかえすと、

「なんでもない」

 と、ママは口をつぐみました。

 二人はくるまにのりこみました。

「じゃあ、行ってくる」

「気をつけて。無理むりしないで、なんかあったら、すぐに引き返すのよ」

最後さいごのあいさつをしろ」

 チェロキーがアゴで、ソルをうながしました。

「あ、ありがとうございます。サヨナラ」

 うらがえった声でいうと、ペコペコ、からくり仕掛じかけのように、おじぎを二回しました。

「よう、たっしゃでらせよ。若人わこうどよ!」

 ダイが言い終わる前に、エンジンがかかりました。

「ホント、無理むりしないでよ!」

 エンジン音にけないよう、ママが怒鳴どなると、くるまは走り出しました。


 くるま視界しかいから消えると、ダイはふねのタラップに手をかけ、のぼりはじめました。

本気ほんきで行く気?」

 ママの問いに足を止め、彼は背中せなかごしにわらいました。

「なにも、今でなくても……」

 ダイは、メンドクサそうにむきなおりました。

「ズルズルってなるだろ? このまま、ここにいたら」

「――あんたたち見てて、そう思った。わかさが貴重きちょうなのが、ようくわかった。べつにこれ、いやみで言ってんじゃないんだぜ」

「……」

 むごんのママ。

「じゃあ、そういうことで」

 しゅっと、かた手を上げました。

「気をつけてね」

 後ろ手をふって、彼は船内せんないに消えました。

 エンジンがかかりました。海面かいめんにアブクが立ちはじめます。アイドリングもそこそこ、ふね埠頭ふとうからはなれ出しました。

 どんどん、はなれていくオンショアごう。やがてふね回頭かいとうをはじめ、むきをかえていきました。

 ふいに船室キャビンのうしろのドアが開き、ダイが甲板デッキにあらわれました。

「せわになったな、ジジィ!」

 と、大声で怒鳴どなりりました。

 ヒールの高いサンダルでのびをして、ママは手をふって返しました。ふねが見えなくなるまで、彼女は大きく手をふっていました。




 まばらな綿雲わたぐもがうかぶ青空の下、くるまは海の上を快調かいちょうにとばしていました。黒地くろじに白のゼブラ模様もようのラングラーが、しずかなガソリンエンジンをひびかせ、潮風しおかぜの中を疾駆しっくしていました。

 視界しかいがよく開けています。まばゆく広がるオーシャンブルーに、きらめくぎんうろこかたくずれしない、おきもののような白いくもが、ポッカリうかんでいました。

 橋梁きょうりょうのりょうわきには、道路照明灯どうろしょうめいとうはしらがなく、路面ろめんから1メートルほどの高さの欄干らんかんがあるだけでした。道にまたがった案内標識あんないひょうしきが、ビュンと、とんでいきました。

 トップは閉じたままですが、風がバタバタ音を立てて、車内しゃないをあれクルっています。ソルはりょう手でひさしをつくって、のびすぎた前髪まえがみをふせぎ、青いかがやきに目をおよがせていました。

 この方の露草色つゆくさいろから、かなたの紺青こんじょうへ。色のグラデーションが変化へんかしています。植物しょくぶつプランクトンが少なくなるせいか、遠方えんぽうの青は、ひときわく見えました。環境対策かんきょうたいさくによるんだ空気くうきのおかげで、対岸たいがんのコンビナートがハッキリかび上がり、しょうエネルギー化されたエチレン製造設備プラントの、タンクやパイプさえ見えました。

 きれいな緑の案内板あんないばんと黄色い警戒標識けいかいひょうしき、白いアーチがた電話でんわボックスと、リングだけになった吹流ふきながしの残骸ざんがい……、たんちょうな景色けしきがつづきます。ヒビワレもなく、思ったいじょうにキレイな道を、チェロキーは順調じゅんちょう愛車あいしゃを走らせていました。

 かろうじて「うさぎ島 1.2km」とめた示板ひょうじばんをすぎ、下り勾配こうばいになると、白い構造物こうぞうぶつがハッキリしてきました。

 うさぎじまへの誘導路ゆうどうろがあらわれ、三車線しゃせんになりました。海上ではじめての信号機しんごうきをすぎると、また二車線にしゃせんになり、左右には道路照明灯どうろしょうめいとうがならびました。

 頭上ずじょうのU字の高架こうかをくぐると、その道が下りてきて、また三車線さんしゃせんになりました。そのまま上部構造物じょうぶこうぞうぶつである、うさぎ島パーキングエリアへ、地下へとつづく穴倉あなぐらへといこまれていきます。

 手前でチェロキーはハイビームをけ、トンネル照明しょうめいの消えた坑内こうない突入とつにゅうしました。

――と、さっそくバリケードです。

 チェロキーはくるまからおりて、確認かくにんにむかいます。

 見るとバリケードは簡易的かんいてきなもので、人の手でも、じゅうぶんうごかせそうでした。

 もどってくるなり、

「よし、ここでりろ」

 と、いいました。

「?」

 のみこめない、ソル。

「聞えないのか? りろと言ってるんだ。荷物にもつといっしょにな」

「……」

 不意打ふいうちでした。ワケがわらず、重たい足どりでソルはおりました。

 チェロキーはまどからかおを出し、事務的じむてきにいいました。

「おれは、これからすることがある。後は、おまえ一人で行け」

「……」

 アクシデントにろうばいしても、ソルはかおに出ない、出せないのが特徴とくちょうでした。ちょっと前なら、なにかにつけ不運ふうんに先手をうって、予行演習シュミレイションしていましたが、その気がまえもすっかりわすれていました。

「――サヨナラ」

 先走って終わりのコトバが、出てしまいました。

「やけに、ものわかりがいいな(笑)」

 めんくらって、ふきだすチェロキー。

 ソルもいみなくわらいました。

 いちどの切りかえしで、ラングラーは走り去りました。

 ふたたびの下に出ると、チェロキーはかわジャンをぬぎました。

「おかしなガキだ……」

 と、彼はつぶやきました。



 ソルは一人、とりのこされてしまいました。

 背後はいごからの光は、まだとどいていますが、この先は黒くりこめられたような、暗黒あんこくかべでした。いそいでママからもらったリュックを手さぐりし、チェロキーからもらったフラッシュライトのスイッチを入れました。ライトの電池でんち極小きょくしょうで、つけっぱなしでも二日強もちますが、ねんのため、よびを三つもたされていました。

 まるみをおびたかべを、クルッとらしてみました。

 なるほど、せまい範囲はんいはクッキリ見えます。

 こんどは、光を直進ちょくしんさせてみました。

 おもったほど、のびてくれません。不安ふあんがよぎりました。

 白い穂先ほさきはあえなくしおれ、黒にのまれてしまうのでした。


 バリケードをくぐって、しばらくいくと、道は二車線にしゃせんにへりました。なぜか、左がわだけ歩道ほどうが広く、非常時ひじょうじのためでしょうか、棚段たなだんがもうけてありました。高さ1メートルほどで、上は人ひとり歩けるはばでした。

 息苦いきぐるしさをおぼえましたが、気のせいなのは、わかっていました。ひっきりなしにふりかえっても、背後はいごひかりは、まだまだ、ぜんぜんハッキリしていたからです。ためしにライトを消すと、薄闇うすやみの中まわりを判別はんべつできました。

――パッ!

 と、あかるくなりました。

 まだ、スイッチを入れていません。

 はじめた、ばっかりなのに!

 故障こしょうをうたがい悲嘆ひたんにおそわれかけると、黒いかげがよぎりました。

 ビクンッ、となるソル。

 カンオンでした。

「なんだよ」 

「どこいってたんだよ、お前は……」

 口もとが、ほころんでいました。

「そうか、生体識別せいたいしきべつか。トンネルへ入って反応はんのうを見うしなって、あわてて来たのか」

 ふねにのり、日常にちじょうをはなれ、海をわたってやって来たものは、とうぜんおなじ経路けいろをたどって、もとに帰らねばなりません。エネルギー環境かんきょうにとぼしい、このしまからの脱出だっしゅつにそなえ、エネルギーを温存おんぞんしていたカンオンは、急速きゅうそくしまからはなれてゆくソルを感知かんちしました。じつは、カンオンはソルの来るずっと前から、みなとに前のりしていました。じっさい、彼もさっきまで、そこの船上せんじょうでゆられていました。しかしくるまとともに、ソルの生体情報せいたいじょうほうが海上をとおざかると、うらをかかれたカンオンは、いそぎ彼をいやってきたのでした。

 声のトーンが一段いちだん上がり、がぜん元気げんきが出てきました。強気つよきになって、コトバづかいも、ちょっとあらくなりました。しょせん彼もクラランっ子でした。

「とりあえず明かり消せ。エネルギーがもったいない」

 ライトをグルグルまわして、いいました。

 光量こうりょうは落ちましたが、消えはしませんでした。そういえばカンオンとは、そういうものでした。

「よし、いくか」

 ここからが、本番ほんばんでした。



 ギョッとするほど大きな文字もじが、右壁みぎかべにあらわれました。

 黒い字で「9km」と書かれていました。

 出口までの距離きょりだと、カンオンがローカル情報じょうほうでおしえてくれます。

必要最小限ひつようさいしょうげんでいいから」

 と、ねんをおしました。

 なんだか暑苦あつくるしく、息苦いきぐるしく感じましたが、彼はじぶんの感覚かんかく自信じしんがもてないでいます。トンネルに入ってから、いったいどれくらい時間がたっているのか、よくわからなくなっていました。

「一時間?」

「――いやいや、そんなはずない、そんなはずない(笑)」

「まだ十分もたってない。数分単位すうふんたんいだ。そんなに時間はたっていないはずだ」

 じぶんのいきづかいが、こもって反響はんきょうします。それがトンネルの中でひびいているのか、それとも頭蓋骨ずがいこつ空洞ウロの中でひびいているのか、あいまいになってきました。

 ぼ~っとなってキーンとなって、足音あしおとがとおくでったり、ちかくでったりしています。

 客観きゃっかん実感じっかん浸透しんとうしあい、皮下ひかでは他人のみゃくがうち、感覚かんかくのカタマリと化しているのに麻酔ますい鈍麻どんましたようになり、意識いしきが先走りするのとは裏腹うらはらに、肉体にくたいからはなれ、じぶんを見下ろしているようでもありました。

 なでるとひたいがぬれていました。反面はんめん、さむけもおぼえました。体の表面ひょうめんがつめたく、内側うちがわはほてっていました。いえそうじゃなく、内側うちがわがつめたく、表面ひょうめんがあついのかもしれません。気づかぬうち、カゼでもひいたのでしょうか?

 悪寒おかんねつとのはざま、体とイデアとの中間でさいなまれているのは、はたして、なにかの罪悪感ざいあくかん代償だいしょうなのでしょうか?

 贖罪しょくざい

 感覚くうそうには限界げんかいがなく、やみ一体化いったいかしたと思ったら、深海しんかい圧縮あっしゅくされた空缶あきかんみいに、ギュッとちぢかんで、やみ疎外そがいされたりしていました。

 もう引きかえそうか?

 とも、思いました。

 ていうか、とっくからそう思っていました。

 後、のこり9キロ。

 まだ19分の1……。

 カンオンのおせっかいな表示ひょうじ

 まだ、はじめたばっかりなのに、もう19分の1だと思えってか?

 ムリいうなよ。

 フフッと、うすらわらい。

「――じゃあ、おまえがやれよ!」

 とつぜんの大声。

 トンネルの中は土埃つちぼこりっぽくゴムくさく、古くなって黒いカビだらけの、エアコンのようなニオイがしていました。




 一方、クラランのまちでは、局所的きょくしょてきなおまつりさわぎになっていました。租税回避地オフショアである、わすれられたしま「スソ・ガウラー・アイランド」からの、ぼうだいな情報流失じょうほりゅうしゅつけんでした。

 上級市民じょうきゅうしみんたる自立民じりつみんさまの多くが、脱税だつぜいしていたんだから、とうぜんといえば、とうぜんでした。しかし、大々てきにそれらの全体像ぜんたいぞうが、カンオン上にほうじられることはありませんでした。

 ビックデータのせいではありません。マスコミ関係各位かんけいかくいと、その広告主クライアントなどの名前なまえ住所じゅうしょが、あからさまに、そのリストにのっていたからでした。合法的ごうほうたきでありながらも、知る人しか知らない、だれもが利用りようできるわけでもない、非倫理的ひりんりてき幽霊銀行ゴーストバンクのお得意とくいさまとして。

 プライバシー保護ほごのために、おおやけのニュースからは個人名こじんめい企業きぎょう法人ほうじん代表取締役名だいひょうとりしまりやくめいなどがふせられました。ほうじられたのは、人目につく有名人セレブばかりでした。蹴球選手しゅうきゅうせんしゅや、蹴球選手しゅうきゅうせんしゅあがりの蹴球連盟しゅうきゅうれんめい元会長もとかいちょう。お子さまむけ漫画映画まんがえいが子役こやくあがりの女優じょゆうに、その原作げんさく翻訳家ほんやくか(これは別件ですが)。それに政治家せいじかでは異国いこく首相しゅしょうと、わがまちクララン市長しちょうのみでした。それいぜんに、大見出しであつかわれることはなく、かたすみに、ひっそりと小さな記事きじが、アリバイづくりでったただけでした。

 一時ソースへたどりつけるのは、あるていどの情報じょうほうリテラシーのある、かぎられた人しかいませんでした。より情報源ソースもとへ、みずからさかのぼることのできるもの。生活せいかつ直結ちょっけつしないが、なんらかの個人的動機こじんてきどうきづけをもつもの。うっくつしたのエネルギーをかかえ、そこそこの教養きょうようのあるもの。など、ゆとりと失くすものがより少ない、ひそかに役不足やくぶそく自認じにんするものにかぎられていました。

 それは全体ぜんたいとしては少数派しょうすうはですが、過少かしょうというほどでもなく、ようは政治的影響力せいじてきえいきょうりょく決定権けっていけんをもてない、被趨勢ひすうせい立場たちば不満ふまんをかこっている、政治せいじ関心かんしんのある自称教養人えせインテリ無趣味むしゅみな人たちでした。

 じりじりと、時代じだいし切られる宿命しゅくめいである、おこりんぼの中高年の男性だんせいたちは「だからこそ我々は、元へ元へと拒み続けるのだ。流れに抗うボートのように、絶え間なく未来へと押し流されながらも」と思いつつも、グズグズなしくずしにながされてゆくわれ世間せけんとを、ゆびを食わえて見ている他ないのでした。――ニーチェいわく「青春を憎むまでが青春」だそうです。

 とはいえ、高度情報化社会こうどじょうほうかしゃかいです。基本勝組きほんかちぐみ臆病者インテリに代わって、まったんでイザコザをおこしてくれるやから、メフィストフェレスの使いっパシリも、もちろんいました。彼らバイキンマンたちは、ほとんどが自由民(依存民)でしめられ、インテリたちはかげにそのメディアリテラシーを駆使くしし、みずからの代役アニマとして、僅少きんしょうがく支援しえんをおしみませんでした。

 しかるに、いったんことがきると、日ごろ野蛮やばんを気どっていたインテリたちはおよびごしになり、おぼうちゃまの地金じがねをさらけ出しました。アイツら「な~んか違うんでしゅよね」と、ともだちんこをわすれ、とおい眼差まなざしをむけるのでした。

 インテリでありながらも、実行犯じっこうはんであるがゆえに、インテリからの羨望せんぼう嫉妬しっとまととなった、あはれなるブルータル三島は、一世一代いっせいちだい檜舞台ひのきぶたいのはしごを予定よていどおり外され、ルサンチマンをかこつDQNの亜種あしゅとして、カンオン上のニューススレッドを数秒間すうべびょうかんにぎわせただけで終わりました。

 この事件じけんをうけ、ある国民的歴史作家こくみんてきれきしさっかは、あろうことか彼のことを「密室(思想)に他人(楯の会)を入れた」=てめぇかってなイデーに他人をまきこんだと、道徳的どうとくてきもしくは倫理的りんりてき批難ひなんしました。

 倫理エシック? 彼は松永久秀まつなが ひさひでという戦国武将せんごくぶしょうに対し「ここで氏は、北陸出征の包囲戦からほとんど身ひとつで脱出してきた信長を、なぜ久秀は謀殺しなかったか、と現在の私たちをドキリとさせる疑問を発している」(街道をゆく/解説 牧野祥三)などに見られるよう、さんざん非情ひじょう無道徳アモラル歴史れきしをデパートの屋上おくじょうからの視点してん俯瞰ふかんしておきながら、みじかな「今ここ」でことがおきると、とたんにまゆをしかめる女々しさをはっきしたのでした。

 一皮ひとかわむけば、その文章ぶんしょうにゆたかなポエジーをたたえたロマンティックなペルシャの幻術士げんじゅつしは「実存? そんなことは召使どもにまかせておけ!」とばかり、書斎しょさい野蛮やばんをきどる澁澤しぶさわばりの典型的ステレオタイプなダンディズムをみせ、ロマン自然主義しぜんしゅぎをあらかじめ内にふくんだ国木田独歩くにきだどっぽのような可能性かのうせいは、チヌたん(戦車)のシュミレイションのダブルクラッチが上手くあつかえず、教官きょうかんにどつかれたていどの、貧弱ひんじゃく従軍経験じゅうぐんけいけんにより抑圧よくあつされたのでした。

 で、フリークスぎらいなアポロン三島の私語。けっきょくのこったのは、さらなる空白だけでした。――ちなみに、彼の生首なまくび写真しゃしんをゆいいつ報道さらしたのは、押神で有名ゆうめいな日の下一のクォンティティペーパーこと、ちょうにち新聞しんぶんのチョウニチグラフだけでした。

 いつだってニュースになるのは、目先の人たち、やってしまう人たちばかりでした。彼らは人間らしいというより、けものよりに今を生きていました。――まともを自認じにんする吾人われわれは、彼らを軽蔑けいべつしつつ、じつはちょっぴりあこがれたりもしているものなのです――彼らはスケープゴートになる未来みらいおそれる空想力よはくや、行動こうどう代替だいたいとなり、またそれらをプールする内面ないめん容量かさが足りず、その場の価値判断かちはんだんもあやふやなため、見切り発車はっしゃのできる人たちでした。よく言えば英雄的気質えいゆうてききしつをもつ人たち、わるく言えばアクセルかしっぱなしの、犯罪者はんざいしゃ類縁るいえんみたいな人たちでした。

 とにかくもうけたいより目立ちたい、スキャンダル中毒ちゅうどく永久とわにマッチポンプなホストチャレンジャーな彼ら彼女らは、ひっくるめて多恋人タレントとよばれていました。

 多恋人タレント多彩たさい無自覚むじかくに、その社会的役割しゃかいてきやくわり遺憾いかんなくはっきしました。その役目やくめとは、宇宙うちゅう暇人ひまじんのための娯楽提供ヒマつぶし、A層(企業)によるC層(受動的大衆)どうしの共感きょうかんをつうじた可処分所得(小遣い銭)の回収かいしゅう、そしてなにより、もっと重要じゅうよう案件あんけんからの目くらまし、などでした。

 ようするに、水面みなもにさざなみは立っても、底からきまわし汚物おぶつさらうような、社会的攪拌しゃかいてきかくはんはおきなかったのです。すべてが不発ふはつにおわり、おわらない日常にちじょうとやらが、また一つ更新こうしんされただけでした。――シオランいわく「おのれを中傷する快楽は、中傷される快楽にはるかに優る。」のだそうです。


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      前夜



 銀行屋ぎんこうやにとって今回の失敗しっぱいは、二度目の大きな挫折ざせつでした。彼はある事件じけんをきっかけに、ささやかでもかがやかしかった、みずからのキャリアに終止符しゅうしふをうたれました。その一度目の失敗しっぱいにくらべたら、今回のそれは、一見たいしたことなく思われました。しかしそれは、おてんとうさんののあたる、ひる世界せかいでのはなしです。こんどのはのあたらない夜の世界せかい、アンダーグラウンドでのことでした。

 べつに確証かくしょうはありませんが、これはいのちにかかわる、重大じゅうだい過失かしつにちがいありません。そしてそこには、いっさいの弁明べんめいゆるさない、アウトロー特有とくゆうの、オスきびしさがあるはずでした。今や彼の運命うんめいは、死神しにがみの白いてのひらの上。後もどりできぬ時間をうらめしく思い、のろうのでした。

 なんだってんだ、いったい!

 けっきょく、どっちも不可抗力ふかこうりょくじゃねぇか!

 クソ! クソ!

 ただ、おれはまれただけなのに!

 なんでいつも、こうなるんだ?

 いつもそうだ! いっつも!

 なんで、おればっかり!

 クソ! クソ、クソ、クソが!

 うめき声とともに、手ぢかなモノに当たりちらしていました。といっても、じぶんの予備よびのタッチパッドを、二三個こわしただけですが。

 彼は銀行ぎんこう駐車場ちゅうしゃじょうに、ところどころやぶれた一人がけソファと、電球でんきゅうの切れたコタツをもち出し、ダラダラ、ひとりみをはじめていました。夜空よぞらには星々ほしぼしがひしめいています。ときおり、おだやかな風がほほをなでました。5メートルほどの南国風なんごくふうの木が、さわさわ、ゆれています。白っぽい樹皮じゅひのヤタイヤシは、ボサボサで手入れもされず、駐車場ちゅうしゃしゃじょう屋根やねのように、頭上ずじょうおおいかぶさっていました。かぜくたび、かさなった鷹揚おうようにそりかえり、いっそう星々ほしぼしまたたかすのでした。

 おじさんはひっきりなしに、かきたねに手をのばしていました。さいきんポテチから切りかえたばかりのやつを、ボリボリむさぼっていました。彼は大人なのに、ママのつくる所帯しょたいじみたつまみより、かわものの方が好きでした。コタツに足をのせ、メヒコさんのうすいゴローナビールをかた手に、らっぱみをつづけていました。

 いくらんでも、それ以上いじょうえないのは、ニオイのせいかもしれません。ケミカルなげた基盤きばんのニオイと、除虫菊じょちゅうぎくをねりこんだ蚊取線香かとりせんこうのニオイとがじりあい、ケムリの微粒子びりゅうし鼻腔びくうをとおって、海馬かいばみこんでゆきます。その付着物きおくは、永遠えいえんに消えそうもありませんでした。




 オンショアごう船上せんじょうにて。


 ソルは甲板デッキの上にねころんで、夜空をボンヤリながめていました。街灯がいとう生活光せいかつこう途絶とだえたみなとの上には、ハレーションをおこしたような、明るい星空ほしぞらがありました。

 分単位ふんたんい、いや数十秒単位すうじゅうびょうたんいで、ながれ星がこぼれます。その中でも最大さいだいのものは、火球かきゅう空中爆発くうちゅうばくはつをおこしたもので、しばらく空の一角に、けむりみたいなあとをのこしました。もしかしたら、なにかの流星群りゅうせいぐんのおり、だったのかもしれません。

 おびただしい星屑ほしくずは、粉砕ふんさいされたシャンデリア。巨大きょだいなミラーボウルを爆破ばくはさせた、テロの後のよう。星座せいざ判別はんべつできぬほど密集みっしゅうし、ちらばって、暗闇くらやみのカーテンにかかっていました。

 れいの荷物にもつをすててからというもの、ずうっと彼は、ぼーっとしていました。それまでのじぶんの人生に対する、なにか受身うけみ無関心むかんしん態度たいどとはちがった、なげやりでありながらも、なにかかたくなな感じ。来るものはこばまないが、じぶんの方からは一ミリだってうごきたくない、といったふうでした。

 ソルは確固かっことした意志いしをもって、じぶんの人生じんせい踏板ふみいたを外しました。それは、やってみればおそろしくカンタンで、今さらながら彼は、他人ごとのようにおどろいていました。

 オレが?

 この・・オレがかよ?

 だって、この・・オレだぜ?

「ふふんっ」

 彼は微笑びしょうしました。  

 ――ヘンだ。

 どう考えたって、ヘンだ。

 おかしい。

 いや、おかしすぎるだろ?

 たからクジにあたるより、ありえないことだ。

 この世でもっともありえない、おかしなことがおきた!

 彼は他ならぬ自分自身じぶんじしんのことなのに、「それを自分がやった」ということを、しんじられずにいました。


 見上げたままの夜空はかぎりがなく、すいこまれそうでした。あいかわらず空は、いつものままでした。

 しかし、パスカルのいう「無限の空間、その永遠の沈黙」が、エッジを立てて彼のむきだしのこころ肉薄にくはくすることは、もはやなくなっていました。

 ほんのちょっと前のことです。なにもかもがはじめてだったころ、彼の杞憂きゆうをさそったのは、まさにその広大無辺こうだいむへんでした。どこまでいっても対象物ていしょうぶつにぶち当たらない、ゆき先はてぬ視線しせん深度しんどは、彼をおびやかし畏怖いふさせました。その風景ふうけいも、今や日常にちじょうとなっていました。心休こころやすまるとまではいかなくても、うつくしさに転落てんらくした、見なれたモノになっていました。

 でもそれも今だけ。とくべつな今だけ。という真実しんじつを、ソルはこのしまに着いてから、いえ、もっとずっと前から、かたときもわすれたことはありませんでした。いつもこころのかたすみに、(潜在的)疑念ぎねんを持ち歩き、ありきたりな個性こせいをもてあましていました。彼もまた、自動的確信[=生命根拠=生きられる時間:ミンコフスキー=生きるのに必要な妄想]なき人生を約束やくそくされた、のろわれた詩人しじん一片いっぺんでした。ぞくにいう不幸ふこうな人でした。

 それはなにも今にはじまったことではなく、もともと彼には、安心あんしんできる逗留先とうりゅうさきなどなかったのでした。彼の人生そのものが、一時しのぎのやっつけ仕事しごと、終わりなき査証さしょうのないたびだったからでした。




 高台たかだいにある灯台とうだいわきの荒地あれち。チガヤの生えた砂地すなちくるまをのり入れ、まどに黒いブーツを組んでのせたチェロキーは、なにやら、ボソボソつぶやいています。

「だから、もう、おそいんよ」

「……ああ、けちまったよ」

「ぐずぐずしているからだ」

「だから、言ったろ」

証拠しょうこ?」

「……だから、証拠しょうこをつかむために動くんだろうが! まがいなりにも、そのための権力機構けんりょくきこう末端まったんだろう?」

「あやうく物的証拠以外ぶってきしょうこいがい情報じょうほうまで、うしなうとこだったんだぞ!」

「……よく言うよ、はなっからはたらく気なんかなかったくせに(笑)」

「だいたい、あのガキがいなかったら、どうしてたんだ? 指環ゆびわだけアイツにもたせても、意味いみないだろ」

「ハァ? 異動いどう季節きせつぅ?」

「だから、なに?」

「……終わったからなに? 今さら来てどうすんの? というか、来る気ねーだろ(笑)」

「いいよ、もう。縁側えんがわねこいて、ちゃでもすすってるよ」

「じじいは、大人しくしてりゃいいんだろ?」

「……そのかわり、ちゃんとお給金きゅうきんの方ははずんでくれよ、たっぷり色をつけてな(笑)」




 ダイは一つところ定住ていじゅうすることなしに、北サツマ通りの「ニューアンカー」そばの家屋かおくを、転々てんてんとしていました。とうぜん不法占拠ふほうせんきょになりますが、しまには定期便ていきびんもなく、ほとんどの季節きせつは、封鎖ふうさされたままでした。

 住民じゅうみんらは立ち退くさい、土地ごとのいっさいの所有物しょゆうぶつ放棄ほうきを、行政ぎょうせいによりみとめられました。それにより固定資産税こていしさんぜい免除めんじょされ、支援金しえんきん各世帯かくせたいに、やく300万給付まんきゅうふされました。また、資産価値しさんかちがなくなっても、いすわりつづける人らに対しても、長引いた交渉こうしょうの末、ゴネどくがあたえられました。

 ダイは洗面所せんめんじょかがみの前に立ち、紙切鋏かみきりばさみを手にしました。おもむろにびきったかみをつかむと、ザクザク大ざっぱに切りはじめました。たちまち洗面台せんめんだいは、黒い綿わたの山もりになりました。水は出ないので、そのまま放置ほうち。ダイは「ニューアンカー」に直行ちょっこうしました。


「ちょっとなにぃ、夜中よぉ?」

 あたまをさしながら、

「これのつづき、やってくれる?」

 じつは他の二人も、時々のびすぎたかみを、ママに切ってもらっていました。ここなら水もおもありました。ママがいうには、そのむかし、美容院びよういんにアルバイトでつとめていたとか、なんとか……。



「なんども言うけど、やめておきなさい。らないわよ、どうなっても」

 ママは店のゆか掃除機そうじきをかけていました。

 あれこれ角度かくどを変え、かがみをながめるダイ。

「聞いてるの?」

「いいんだよ、べつに。つかまったって、たかが、詐欺さぎ片棒かたぼうかついだだけだし」

「――それに、これ以上いじょうここにいても、しょうがないしね」

「……でも、けっこうかかわっちゃってるわよ、もう。もしかして、あんた最初さいしょっから利用りようされ……」

「おれのより、自分のこと心配しんぱいしなよ」

「アタシはここで、どんづまり。他に行くとこがないのよ。なにがまっていようと、ここがアタシの終着点しゅうちゃくてん。うけ入れるしかないわね(笑)」

 ダイがちゃかすように、

みるね~、演歌えんかだねぇ~」

「まあー、ここの男たちって、ホント情緒じょうちょがないのばっかり」

「まあ、そうゆうのえらんで、よっておくったんじゃない? そういう耐性たいせいのありそうなやつ」

「あるぅ~。ありそうでコワイ~」

「いや、今テキトーに言ったんだけど……」

 二人そろって沈黙ちんもく

「さて、そろそろ帰って、明日のためにるとするか」

 ダイは立ち上がりました。

「わざわざ不便ふべんなとこ、住まなくてもいいのに。ここにまっていけば? 前から言ってるように、そのままみ着いたって、いいのよ」

「いいんだよ。あちこち転々てんてんとしていたのは、どうやら本当は、ここにを下ろしたくなかっただけ、みたいだから」

「でもそれも、もういい。終わりだ」

「――ほんと? 後悔こうかいしない?」

「するさ、するにまってんだろ。いざ危険きけんな目にあったら。だからって、いちいちぜんぶ勘定かんじょうに入れて、生きていられるかっての」

「わかいって、いいわねぇ」

 ママは、うっとりするように言いました。

「そういうこっちゃねぇけど……」

 小声のダイ。

「それからこのことは、チェロキーには言わないでいてくれよ。とうぜん銀行屋ぎんこうやにも」


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みなし児ヴィデオ・オレンジ 39 (船上会議)

スマホ640pix



      船上会議



 船内せんない一室いっしつ。一人がけソファにチェロキー。三人がけにダイとママ。大人三人だけの相談そうだんごと。

「あのな、べつにおれだってやつらが、たかがガキ一匹いっぴき、わざわざ頃すとは思っちゃいないさ。まあでも、用心ようじんにこしたことはないからな。そこで提案ていあんなんだが、トンネルを行くってのは、どうだ?」

 チェロキーは、先ほど言いかけたはなしを、はじめました。

「トンネル? トンネルって、あのトンネル?」

 ダイが聞きかえしました。

「そう、あの海底かいていトンネルだ」

「行けんの? 封鎖ふうさされているんじゃないの」

「だれがくるまで行くって言った? 歩いてにまってるだろ」

「歩いてって(笑)」

 失笑しっしょうするダイ。

「あんた、なに考えてんの?」

 あきれるママ。

「なにを、そんなにおどろく?」

「おどろいちゃ、いねえよ。あきれてんだよ」

 半眼はんがんのダイ。

「なんであきれる? しごくまっとうな意見いけんだが? もちろん、行けるとこまでは、おれがくるまでつれていく。うんが良ければ、そのまま向こうに着いちまうかもな」

「あ、そ」

 はなであしらうダイ。

「なんなら、お前のバイクでつれてくか? バリケードか土嚢どのう閉鎖へいさされていても、オフロードならえられるかもしれない。かべがビッチリきずかれていたら、徒歩とほでもアウトだが」

「あんたまさか、あの子一人で行かせるつもり?」

 おこったように言う、ママ。

「ん? べつに、おれはそれでもかまわんが、だれか行きたきゃ、一緒いっしょについて行ってもいいんだぜ」

「どうせ、海の水で水浸みずびたしだ」

 ダイは、なげやりに言いました。

「なら、帰ってくればいい。まさか、わたっている最中さいちゅに、タイミングよく水がき出すとでも? (笑)」

「――わかってるだろ、海底かいていケーブルは通信つうしんふくめて、あの中をとおってるんだぜ。ある程度ていど防水機能ぼうすいきのうはあるだろうが、おそらく、海面下かいめんか60メートル以上いじょう水圧すいあつ浸食しんしょくに、長期間ちょうきかんえうるほどのものではあるまい。それが今でも機能きのうしているんだ。最低さいていでも国がそれなりのメンテナンスをやっている、と考えてもおかしくないだろ? ばくだいな費用ひようをかけて、つくったトンネルだからな」

 たたみこむように、

「な、一見、無謀むぼうにみえても、そこまでのリスクはないってことさ」

「……」

 むごんの二人。

「キケンよ」

「なにが危険きけんなんだ?」

「なにがって……。だれもやったことないじゃない。保障ほしょうがないじゃない」

「少しでもあぶないと思ったら、引き返せばいい。なにがなんでも強行突破きょうこえとっぱしろなんて、だれも言ってない」

「でも……」

 言いよどむ、ママ。

「たしかに、たしかにな。リクツの上では危険きけんは少ないかもしれない。でも、机上きじょう計算けいさんでしかないことも、いなめない」

 あくまで、慎重派しんちょうはのダイ。

「いや、いや(笑)」

 苦笑にがわらいするチェロキー。

「だから、帰ってくればいいと、なんど言わせる。あの中に魔物まものでもひそんでいるとでも思っているのか? かりに、水がまっていても引き返せばいいと、なんべん・・・・言わせるんだ?」

 上体を前に出し、

「――いいか、水はドラゴンのようにおそってこない!」

「……」

 むごんのママ。

「そりゃまあ、そうだが……」

 口ごもるダイ。

「どうやら、反対意見はんたいいけん出尽でつくしたな」

「早いだろ!」

「まだまってないわよ」

「じゃあ、今の内に対案たいあんをだせよ」

 もたれに体をあずけ、腕組うでぐみしてみせるチェロキー。

 薄目うすめを開けて、一通ひととおりまわりを見わたします。

「ふーっ」

 と、いきをもらすと、パンッと手をうちました。

「よし! まったな」

「よし、じゃねえよ!」

 おわらせまいとする、ダイ。

「よくないのか? えーと、たとえば、どこらへんが? じゃあ対案たいあんは?」

 とぼけたように。また、あたりを見わたします。

「――な、だれもこたえられないだろ? では、このはなしはこれで終しまい。後は実行じっこうあるのみ!」

対案たいあん対案たいあんウルセーヨ。もっと、民主的みんしゅてきにやれよ」

民主的みんしゅてきってなんだよ? 民主主義みんしゅしゅぎのことか? ではダイくん、君の意見いけんをどうぞ」

「ねーよ」

「あ、そう棄権きけんね。ママは?」

「あたしは……」

意見いけんがないのなら、このままグズグズしている方が、より安全あんぜんであるという、合理的ごうりてき根拠こんきょは?」

「……」

「つまり、ママも棄権きけんということだな」

投票結果とうひょうけっか。おれ一票いっぴょう他二票ほかにひょう棄権きけんとみなし、多数決たすうけつにより、この案件あんけん可決かけつされました。パチパチ」

「もう、らないわよ。アタシは」

まったていで、しゃべるなよ」

 ママを、にらみました。

「いや、まったんだよ。場外乱闘じょうがいらんとうはナシ。スマートにいこうや」

 ダイは、そっぽをむきました。

 たしかにチェロキーが一方てきすぎる、きらいがありますが、それにしたって一番わかいダイの態度たいどが、こうも保守的ほしゅてきなのは、おそらく彼の過去かこからくる、大人への不信感ふしんかん原因げんいんと思われました。「またなんか、うらがある」とかんぐり、だまされるがわの子への共感きょうかんがはたらくのでした。

 みずからの体験たいけんと、ソルをすかして見るホルスのすがた、もしかしたらそこには、つみほろぼしの意味合いみあいも、ちょっぴりふくまれていたのかもしれませんね。

 なにより、ダイも他人のことはいえませんが、彼ら全員ぜんいんが、正体不明しょうたいふめいの「どこのうまほねとも分からぬやから」ばっかりであることに、ちがいありません。それゆえ、おたがいがおたがいを牽制けんせいしあうのは、とうぜんのなりゆきといえました。

 チェロキーはヒジかけをつかんで、よいしょっと、立ち上がりました。

「さて、説明せつめいすると、ラインの全長ぜんちょうは15.1キロ。その内のトンネルの長さは9.5キロだ。いいか、たった9.5キロだ」

 みじかさを強調きょうちょうします。

「ただ歩くだけだと、大人で時速じそく4キロだから、単純計算たんじゅんけいさんで15.1kmでやく3.5時間だ。おれはトンネルの入り口まで行ったことがある。そこまではくるまで行けるはずだから、ブリッジの距離きょり4.4kmは分単位ふんたんい誤差ごさなので、計算けいさんにいれないことにする。よって、海上かいじょうの道は、15.1-9.5-4.4=1.2km。かかる時間は、1.2(距離)÷4(速度)=0.3(時間)、これを分にすると18分。子度藻の足を考慮こうりょにいれると、25、いや28分くらいか?」

「――それにトンネルの全長分ぜんちょうぶん9.5kmの時間を足す。9.5(距離)÷4(速度)=2.375(時間)、トンネル通過つうかにかかる時間は、2時間22分30秒だ。しかしアップダウンがある。海面下かいめんか60メートルの下りとのぼり、それに子度藻の足を考慮こうりょして、う~ん、どうするかな。まあ、3時間いや4時間ぐらいにしておくか」

 ダイがじりじりしています。それへ目くばせして、

「で、それへさっきのを足すと4時間28分、4時間半てとこだ。さらに余裕よゆうを持たせて1時間ほどの休憩きゅうけいを入れると、およそ5時間半。トンネル内をすべて歩いたとしても、朝早くに出発しゅっぱつすれば、だいたい昼前ひるまえには着けるだろう」

「つまり――」

「まだ、しゃべんのかよ!」

 ダイをおさえて、

「まあ、まて。つまりだ」

「引き返さなければ日仕事ひしごと、午前中いっぱいで終わるってことさ。たとえ最悪さいあく、トンネルの出口付近でぐちふきんで引きかえすハメになっても、トンボがえりで、夕暮ゆうぐれまでには帰ってこられる。なんなら、一泊いっぱくしたっていい。それでも、翌日よくじつの午前中には御帰還ごきかんできるって、寸法すんぽうだ」

 手でダイをせいし、

「今、言ったのは、アホほど安全あんぜんバイアスかけまくった結果けっかだからな。おそらく実際じっさいは、こんなにかからんよ。以上いじょう

 手をダイにさしむけ、すわりました。

「なっげーよ」

 足でゆからしました。

「長々と長口上ながこうじょう、ゴクローさん。だからなに? 机上きじょう計算けいさんだっていってんだろ!」

「ん? そのはなし段階だんかいは、もう終わったが? それともなにか? お前があのガキの面倒めんどう、一生見るのか? 考えちがいをするなよ。お前の立脚点たちばの方が無責任むせきにんなんだからな」

「じゃあ、むこうに着いたら、どうすんだよ」

「ハァ? るかボケ! そんなことをオレらが心配しんぱいして、どうすんだ? むこうに着きさえしたら、後はなんとだってなるんだ。子度藻様マイノリティさまだぞ! てめぇはそのドングリまなこで、ガキや女や重度じゅうどのショーガイのホームレス見たことあるか? ないだろ? 大人しゃかいがほっとく、わきゃねーだろが。ガキだって莫迦じゃねぇんだ。その辺の大人みつくろって、なんとかすらぁな。ガキのことより、てめぇの将来しょうらい心配しんぱいでもしてろ、小僧こぞう!」

「身の安全あんぜんは!」

 怒鳴どなりかえすダイ。

「なんのためのカンオンだ? トンネルさえければ、後はすぐさま生体識別せいたいしきべつに引っかかって、カンオンがつくに、きまってんだろ。なんてったって、もともとカンオン持ちの、上級市民様じょうきゅうしみんさまだからな。問題もんだいなのは、それまでのカンオンフリーの空白状態くうはくじょうたいだ。後のことなんかったことか!」

「……」

 ぐうのも出ず、ダイはだまるしかありませんでした。

 チェロキーはトーンダウンして、

「まあ、いそぐこともないから、日をまたいだっていい。たいして必要ひつようなものはないが、それでも一応いちおう準備じゅんび余裕よゆうをもってしておこう。というか、ここにあるものをらして、持って行けばいいだけか」

 ざっと、見わたし、

「そうだな、水は1リットル、ペットボトル2本だと、ちょっと重いか? 500mlを2本にするか。食料しょくりょうは多めに見つくろっても、せいぜい二日分だ。後いらんけど、一日分の着がえ、さむ対策たいさくとして、長ズボンとジャンパーだ。もっとちゃんとした、リュックもしいとこだな」

 あれよあれよとまっていく計画けいかくに、黙認もくにんせざるをえない二人。チェロキーは、ほんのり笑顔えがおをうかべています。

「他になんかあるか? ああ、そうそう、ライトだ。カンオンがないからな。一番大事いちばんだいじなものをわすれていた。そいつはおれの手持ちでなんとかしよう」

 実質じっしつ完全かんぜんなリーダー気どりで、彼は宣言せんげんします。

「いいか、このままなにもなかったら、出発しゅっぱつは明日、未明みめいあけてすぐだ。それまで各自、自分の分担ぶんたんだと思われる仕事しごとにかかれ。以上いじょう

 まんぞくげなチェロキーをよそに、ウンザリかおのダイと、心配性しんぱいしょうのママのかおとがありました。そんなこととは、つゆらず、外にいるソルは、まさに蚊帳かやの外でした。


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